「ボスー……あの………」
「次」
ぺらり。
「あの、ですね、私、その……」
「次」
ぺらり。
「お風呂に、行きたいなー……なんて」
「次」
ぺらり。
「そろそろ明日の学校の用意もしたいですし……」
「………せぇ」
「え?」
何?何ですか?
小さ過ぎて聞き取れなかったボスの声に耳を澄ませ、ちょっとばかり身を寄せた直後。
「煩ぇんだよ、カスが!!」
かっ消す!!!
ぎゃー!!!!
ちょっとーリサー!!? 何時だと思ってんの!!? 静かにしなさいっ!!
ドンッ!ドンッ!と容赦なく放たれる銃弾に慌てて蹲りながら、下から聞こえるお母さんの怒声に「ごめんなさい!」と叫び返す。もうやだこれ!
「だだだ、だって! お風呂!」
「知るか!」
「学校の用意だって!」
「サボれ!」
「そんな無茶苦茶な!」
叫んだところで額に押し当てられる銃口。ひんやりした感覚に口元を引き攣らせれば、顔の痣をいつもより増やしたボスがそれはもうとんでもなく恐ろしい顔で私を見下ろしていた。
やばい、死んだ。死んだよこれ。
「つまらねぇモン読んで苛々してんだ、これ以上苛々させんじゃねぇ」
「よ、読まなければ良いじゃないですか!」
「るせぇ。こっちにも事情ってモンがあるんだ」
そんなの私の知ったこっちゃないのに!
言い返そうとした口を慌てて両手で塞ぐ。セーフ。セーーーフ!!
もうこわいです私。この生活むりです私。誰か代わってください。
「今日中に五冊読むっつってんだろうが。風呂なんざその後だ」
「寝れないですよ……!?」
「ハッ、俺の知ったことじゃねぇな」
吐き捨ててベッドに戻るボス。
とっとと来い
………はーい
ずずっと鼻を啜って元いた所に戻って、ページを捲る作業を再開する。
つまんないんだよ、私。読む速さ違いすぎるから一緒に読めないし。そもそも読みたくないし。
見た目だけは良いボスの顔を眺めてたらうぜぇって怒られたし。することない。
携帯弄ってたら反応遅れて怒られたし。お風呂入りたいし。ぐすん。
「ボス、実はこの体勢結構つらいです」
「黙れ」
「……すみません」
「るせぇっつってんだろうが」
「謝っただけなのに!」
ドンッ!
ぎゃうっ!
もうこわい。こわいこわいこわいこの人何なのこわいこわいこわい。
ぐすぐすと鼻を啜りながらベッドの傍らに膝立ちをして、ベッドに寝転がるボスに重ならないように気を付けながらページを捲る。
そもそも幽霊にベッドは必要ですか?
問いかけるだけ無駄だと思うけど、どうしても思ってしまう。
私なんか使い古した煎餅布団なのに。フローリングに煎餅布団なんて身体すごく痛いのに。
「次」
「へい」
ぺらり。
ページを捲る技術だけやたら上達していく午後八時三十分。