08


「ボス、私そろそろ眠いかなぁ……なんて」
「このページじゃねぇ、そっちだ。間違えんなカス」

あの、だから眠いんです。
パソコン画面見る目はしょぼしょぼしてきたし、クリック操作だってそりゃミスりますよ。よく見えてないんだもの。

新聞を読み終わるとすぐに横になってたから寝たと思ってたのに、お風呂から出てきたら「遅ぇ」と銃弾ぶち込まれて(おかげでポカポカの身体が一気に涼しくなりました)、涙を浮かべながら布団を敷いた私に「とっととパソコン操作しろ」と仰った。
それから数時間、私はボスの手となり足となり……いや、手だけだ。とにかく、ボスの指示を受けてひたすら世界中のニュースを探してはページを開いている。ボスは速読の心得があるのか、ほんの十数秒、長くても一分で読み終えると「次だ」と次のニュースを急かしてくる。
たった今私が必死の思いで告げた「眠いです」という言葉は華麗にスルーされた。

英語、フランス語、イタリア語、その他もろもろ……私はさっぱり読めないから、検査結果を見てボスが指したものをただクリックしてページを開くだけだ。
この人、一体何ヶ国語マスターしてるんだろうか……ボスには謎がいっぱいです。

「ボスって何ヶ国語マスターしてるんですか?」
「あ?」

何だ突然。眉を寄せてこちらを睨むボスは、少しの間考える素振りをしたかと思うと「……十四だ」と答えてくれた。おぉ、まともに答えてくれた……!ちょっと感激だった。

「すごい……あの、ボスって何歳なんですか?」
「……聞いてどうする」
「いや、どうもしないですけど……離れられないみたいだし、ちょっとくらい親睦を深めようかなとか………」

ボソボソと呟いたら鼻で嗤われた。この人親睦深める気ないらしい。
こみ上げる溜息を飲み込んで、言われるままに新しいニュースを開く。単調なその作業は容赦なく睡魔を引き寄せてくださって、何と言うか、とにかく眠いのだ。

「あの……寝ませんか?」
「次はこれだ」
「……はい」

スルーされた。
無言のまま指示通りにページを開いては閉じて、閉じては開いてを繰り返していく。眠い。とにかく眠い。

「次はこれ――」

舟を漕いでいた私はボスの声が途中で切れたことにも、こめかみに冷たいものを押し当てられたことにも気付かなかった。

ドンッ!

至近距離の発砲はダイレクトに鼓膜を震わせてくださった。
声にならない悲鳴を上げ、耳を押さえながらボスを見上げれば、物凄く不機嫌そうな赤い目がこっちを見下ろしていた。

「ドカスが」
「ご、め……うおぉ………」

耳が……耳が……っ!!
攻撃されるって分かってなかったから破壊力半端ない。辛い。とにかく辛い。あ、涙滲んできた。
椅子の上で蹲る私に痺れを切らしたのか、頭上でボスがまたもや銃を構えたのが分かった。あーやだやだ、また撃たれるよう、痛いよう。眠いよう。

「………?」

一向に銃声も痛みもやってこない。内心首を傾げながら恐る恐る顔を上げれば、つまらなさそうに私を見下ろすボスと目が合った。あ、ほっぺ濡れてる。いつの間にか涙が溢れてたらしい。

「………チッ」

盛大な舌打ちをしてくださったボスは、驚くことに銃を懐に収めて私に背を向けた。
あれ?と思ってる間にベッドに移動したボスはごろんと横になって一言。

「だりぃ、寝る」
「、は?」
「とっとと電気消せ」

背を向けたボスの顔は分からないけど・・もしかして、気を遣ってくれた、のか・・・?
いや、ただ眠気がピークな私が使えないからかもしれないけど。そっちの可能性の方が高いけど。

「……ありがとう、ボス」

小さな小さな声でお礼を言って、パソコンの電源を落として電気を消した。
潜り込んだ布団はずっと押入れにしまい込んであったからか微妙な臭いがしたけど、まぁ我慢出来る。
枕に頭を乗せて目を閉じれば、あっという間に夢の世界へと旅立っていった。





幽霊に絆されかけた午前二時。





「とんだカスだな」

夢の世界に旅立った直後、ボスがそう呟いていたことを私は知らない。