早朝から、本当に早朝から疲れまくってたけど、学校に行かないわけにはいかない。
朝から何でそんな疲れた顔してるの?
お母さん、
何?
……地獄って、本当に地獄なんだね
はぁ?
「行ってきまーす……」
「はーい、行ってらっしゃーい」
やつれた顔で家を出る女子高生って世の中に何人いるだろうか。
いや、そもそも幽霊が現れてベッドを占拠されて、あまつさえ銃まで発泡された女子高生はこの世に何人いるのだろう。
「はぁ……いつになったら消えてくれるんだろう………」
駅へと向かう足取りは重い。
だめだ、心を入れ替えなければ。ペチペチと頬を叩いて気合を入れ直す。
そうだよ、学校にいる間はあの人に会わなくて済むんだ!素晴らしいじゃないか!!
放課後は急いで寺に行って撃退方法を伝授してもらうし、上手くいけば今日は気持ちよくベッドで眠れるかもしれない!!
「――よし、元気出てきた!」
足取りが自然と軽いものに変わっていく。
鼻唄まで歌っちゃうんだから!ちょっと変な目で見られても気にしないよ!
鼻唄を歌い始めることおよそ二分。
家を出てから十分くらいかな。
「テメェ……! 何しやがった!!」
聞き覚えのありまくる怒声に非常に恐ろしい音が続いた。
ギギギ、と壊れたロボットのように振り返った先に見えたのは。
「ひいいぃぃぃぃ……!!」
「かっ消す!!」
両手に真っ黒なゴツイ銃を携えた恐ろしい幽霊が物凄い速さでこっちに飛んでくる。
昨日の夜と雰囲気が違うような気がした。いや、怒り具合とかじゃなくて。
顔の痣、あんなにあったっけ……?
「なんて考えてる場合じゃなかった!! わ、私何もしてませんよう!!」
「るせぇ!!」
貴方の方が煩いです!!
なんて叫び返す余裕なんてない。
だって、必死に逃げる私の身体をいくつもの弾丸が貫通していくのだから。
ただでさえ痛いくらい冷たくて嫌なのに、それがいくつもいくつも頭とか心臓の辺りとか足とか撃ち抜かれていくから、冗談じゃなくてガチで泣いていた。
周りの視線が痛い。
駅まで全力疾走をする羽目になった私は、定期を取り出すのにもたついて改札で立ち止まる。あぁ、周りの視線が痛い。テメェ邪魔なんだよ的な視線が痛い。
「あ、あった!」
「テメェ、何しやがった」
こめかみに押し付けられた冷たい何か。
いや、正確には冷たい何かが僅かに頭に入り込んでるんだけどね。幽霊さんの私物(?)だからか、この銃まで透けてるんだ。弾が無限なのは何故ですか。まさかの幽霊特典ってやつですか?勘弁してください。
「な、にも、してないです……」
何食わぬ顔で改札を通り抜けながら、小さな声で返事をすれば、容赦なく撃ち抜かれた。
周りの人が素知らぬ顔で過ぎていくのを見る限り、やっぱり見えてるのは私だけらしい。おかしいな、霊感なんて欠片も持ってなかったのに。
「じゃあ何でテメェから離れられねぇ」
「、は?」
今、何て言いました?
かっ消えろ、ドカス
銃声が二発。
思考が停止した私の頭と間抜けな声を出した口に撃ち込まれた。
ちょっとだけ慣れてきたもんね!
……ぐすん。
ホームで電車を待ちながら、隣に漂う幽霊さんの話を聞いたところによると、どうやら私が家を出て少し経ったくらいに突然身体が引っ張られ始めたとの事らしい。
ふざけんな、まだ眠ィんだ外に出て堪るかと散々藻掻いてはみたらしいけど、私が駅に向かって進んで行くから幽霊さんの身体もどんどん引っ張られていくらしく。
やはり私が何か仕出かしたのだと思い、怒りに任せて銃をぶっ放してくださったらしい。
「あの、ですね」
怖いけど言わなければ。
「私、何もしてないです」
「ざけんな。じゃあ何で俺はこんなトコにいる?」
「私が聞きたいですよ……! いきなり部屋にいるし、他の人達に見えてないみたいだし………」
ベッド占拠されるし
あ?
何でもありません(ぐすん)
この幽霊さん、恐ろしく地獄耳らしいです。
何故かは分からないけど、この恐ろしい幽霊さんは私にしか見えなくて、しかも私から離れられないらしい。試してみたら十数メートルくらいしか離れられなかったとか。
「何とかしやがれ」
「どうやって」
反射的に言い返せば、ギュウギュウの満員電車の中で銃声が一発。頭上に漂う幽霊さんは見事に私の脳天からぶち抜いてくださった。
「俺はまだ寝る。だから今すぐ家に帰れ」
テメェの部屋ってのは気に食わねぇが、仕方ねぇから我慢してやる。
こんな煩ぇところになんざいたくねぇんだよ。
とっとと帰りやがれ。
無茶ばかり言う幽霊さんに思わず溜息が零れそうになって、慌てて口を押さえた。鋭い視線が痛い。何でだろう、舌打ちも痛い。
「あの……つまり、ですね」
このまま学校について来るって事ですか?
引き攣った顔で恐る恐る尋ねれば、幽霊さんは二丁の銃を私の口があるところに貫通させて怖い顔で睨んできた。冷たいです、怖いです……!
「誰が行くか! とっとと帰れっつってんだろうが!!」
幽霊さんがそう叫んだのと、車内アナウンスが学校の最寄り駅への到着を告げたのはほぼ同時だった。
おめでとう!幽霊は背後霊に進化した!
「あの……放課後にお寺に寄りますから………すみません、ちょっとだけ我慢してくれませんか……?」
「カスが。かっ消されてぇのか」
「すみませんすみません今日は小テストの日なので休めないんですごめんなさい」
ひたすらに謝り、ひたすらに頼み込んで漸く了承を得た私は、とんでもなく重い足取りで学校へと向かうのだった。
「遅ぇドカス。チンタラ歩いてんじゃねぇよ」
まだ一日も経ってないのに銃声に慣れつつある自分が悲しくなりました。