「あの……」
「あ゛ァ?」
小さな小さな声で呼びかければ、不審者(仮)は物凄く怖い顔で私を見下ろした。怖い。とんでもなく怖い。けど、言わなきゃならない言葉がある。
「こ、この近くにお寺があるんです……っ、そ、それで、あの……じょ、成仏してください……!」
「……………」
俯いているから不審者(仮)がどんな顔をしているか分からない。沈黙が怖い。でも、言いたい事は言った。私は除霊なんて出来ないし、成仏してくれるのが一番だ。変に刺激して悪霊とかになられても困るし。執念深そうだから絶対取り憑かれて殺されちゃうもん……!!
「テメェは俺が幽霊だとでも思ってんのか?」
「だ、だって……っ、」
「ざけんな!! 俺は死んでねぇ!!」
「ひっ……ご、ごめんなさい怒鳴らないでください……!」
頭を庇うようにして蹲ると、また冷たい感覚。舌打ちが聞こえて恐る恐る顔を上げれば、不審者(仮)の足が私の身体と重なっていた。
「ひっ!」
こ、この人、私を蹴ろうとしたの……!!?幽霊で良かった……!!!
どうしよう、まさか幽霊がここにいるなんて言ったってあの両親が信じてくれるはずがない。寝ぼけてないでとっとと寝ろって言われるのがオチだ。
よし、こうなったら……っ!!
「テメェ! 何処行きやがる!!」
不審者(仮)の怒声から逃げるように階段を駆け上り、自分の部屋へと飛び込んだ。嬉しいことに部屋には鍵が付いてるから、急いで鍵をかけてベッドに飛び込む。掛布団を身体に巻き付けて必死に身を縮こめた。お願いだから早く消えてくれ……!!お願いだから!お願いだから……!!!
「ドカス」
無情にも私の祈りを打ち砕く冷たい声。身体が震えた。
「仮に俺が幽霊だったとしたら、テメェのそれは何の意味も持たねぇだろうが」
「ででで、出てってください……!! 成仏してください……!! 私何もしてないです! 恨まないでくださいいいぃぃ!!」
「ハッ、それはテメェ次第だ。とっとと出て来やがれ」
「それとも――」と不審者(仮)が勿体ぶって言葉を切る。嫌な予感がしてギュッと目を瞑ったその時、耳のすぐそばで聞こえた静かな声。
「――呪われてぇか?」
「ひいいいぃぃぃぃっ!!」
叫びながら慌てて飛び起きると、窓枠の所に腰を掛けて脚を組んだ不審者(仮)が私を見下していた。嘲るように僅かに吊り上がった口角にすら恐怖を覚えた。
「おい、カス」
「っは、はい……」
カスだなんて物凄く嫌な呼び方されてんのに律儀に返事をした私に、不審者(仮)はやや満足気に口端を吊り上げると恐ろしい台詞を言い放った。
「今日からここに住む」
「、は……?」
「寝る。退け」
「ちょ、」
「とっとと退け。呪われてぇのか」
「ひいいぃぃぃっ!!」
慌ててベッドから転がり落ちると、不審者(仮)はそんな私を嘲るように鼻を鳴らしてベッドに横になった。ちょっと待って、え、何?どういうこと?私、何処で寝るの?そもそも、え?何で?住む?ここに?何言ってんの?
「あ、あの……」
「るせぇ、黙れドカス」
こちらを見ないままに不審者(仮)が何かを取り出す。暗がりでよく見えない。窓から覗く月に照らされたそれは何やら恐ろしい形をしているんですが、気の所為ですよね?カチリと聞こえたと思ったら、ドンッなんて恐ろしい音と一瞬の閃光。私の頭を突き抜けたそれは、もしかして、もしかして・・?
「ちっ、やはりこれもダメか」
「…………」
嫌そうに吐き捨てて黒光りするそれを懐にしまった不審者(仮)。
私はといえば、それの正体が自分の予想通りだった事に驚き恐怖し、そのまま意識を失ってしまった。
幽霊の装備=黒光りした凶器
どうか、全て夢でありますように。