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「ん、んんっ?」

いけね。また寝てた。
せっかくタミが気を利かせてくれてERRORと二人だってのに、緊張紛らわす為に飯屋に入ったらいつものように寝ちまった。

「悪ィ、ERROR――あれ?」

顔についたご飯粒やらソースやらを拭いながら、向かいに座るERRORへと視線を向けたはずだった。
けど、そこには誰もいない。キョロキョロと店内を見回してみてもERRORの姿は見つからない。

「どこ行ったんだ?」
「一緒にいた嬢ちゃんなら、お仲間探しに行ったよ」

やっと起きたのかい。笑う店主のおっちゃんの言葉に目を丸くする。

「探しに? って、タミをか?」
「あぁ、探してすぐに戻ってくるから、待っててくれだと」

それからもう一つ伝言だ。
ニヤリと笑ったおっちゃんに、何だか嫌な予感がする。

「『バーカバーカ、エースのおたんこなす!』だとよ」
「………!!」

やべぇ!怒らせちまった!
一瞬で青褪めた俺におっちゃんは声を上げて笑って、代金はもうもらってるよ、と付け足す。
残りの飯を急いで掻っ込んで、ご馳走様と叫びながら俺は飯屋を後にした。

ERRORー!! タミー!!」

歩き回りながら声を張ってみるけど、返事はない。ERRORの姿もタミの姿も見当たらねぇ。
おっかしいな、どこ行ったんだ?

ERRORー!!」

何でだろうか。
何か、嫌な予感がする。

ERRORはどこに行ったんだ?
タミはどこに行ったんだ?

「………あそこ、ERRORっぽいな」

街外れの高台に見える金持ちが住んでそうな屋敷。何か怪しい。
確か、マルコが領主がどうのこうのって言ってたな。何つってたか忘れたけど。

「よし、行ってみっか!」

両足にグッと力を篭めて、屋敷へ向かって駆け出した。




数分もしない内に辿り着いた屋敷。
門番にERRORのことを聞いてみれば、知らないと即答された。

けど、俺の勘がERRORはここにいると告げている。

何でERRORがこんな所にいるのか、とか。
何で門番がしらばっくれるのか、とか。
そんなこと考える時間すら惜しい。

とにかく、突っ込んでみるしかねぇ。

ERROR、待ってろよ!」

塀をよじ登って、いざ屋敷に乗り込もうとしたその時だ。

「貴様! そこで何をしている!!」
「やべっ!」

見つかった!けど、止まってる暇なんてない。

「悪ィ! ちょっとお邪魔します!!」
「なっ……!」

屋敷の二階の窓を叩き割って中へと入り込めば、ふかふかの柔らかい絨毯が俺を迎えてくれた。

「うおっ、すげぇ! ――っと、こんなことしてる場合じゃねぇ!」

アイツらが来る前に、ERRORを見つけ出さねぇと!

ERRORー!! どこだー!!!」

手当たり次第に扉を開けて中を確認していくが、ERRORの姿はまだ見つからない。
どの部屋も客室ってやつなんだろう。無駄にゴテゴテしてて、生活感が欠片も感じられない。
俺だったら一日も保たねぇな、なんて思いながら次の扉を勢いよく開け放った。

そこは、それまでの部屋とはどこか違っていた。
生活感はない。けど、その部屋にだけは大きな額縁が飾られていた。
何故だかそれが無性に気になって足を踏み入れて、額縁の前に立つ。

「………ERROR?」

綺麗なドレスを身に纏って微笑むのは、ERRORにそっくりな女だ。
一瞬ERRORかと思ったけど、ERRORじゃない、気がする。
微笑んでいるその顔は、まるで人形のようで。

「、んだよ、これ……気持ち悪ィ……」
「エース!!」

反射的に扉を振り返れば、ずっと探していたERRORが部屋に飛び込んできた。
間違いなくERRORだ。本物だ。
けど、身に纏うものは船を降りる時に着ていたそれとは全然違う。

「ぶ……っ! ERROR、おま、おま……!」
「良かった! 来てくれたんだ!」

煌びやかなドレスを身に纏って、化粧まで施されたERRORはまるで別人みてぇだ。
畜生、顔が熱い。こんなの反則だ!

「エース?」

どうしたの?なんて首を傾げるERRORから視線を逸らして、深呼吸を二回。
よし、落ち着いた。大丈夫だ。

「なぁ、何があったんだ? その格好も……」
「そうだ! エース、早く逃げよう!」
「は?」
「アタシにもよく分かんないんだけど! 何かここの領主様がアタシを誰かと勘違いしてるみたいで……」
「もしかして、そいつか?」

額縁を指せば、ERRORの目がそちらへ向く。
うそ。目を丸くしたERRORの口から小さな声が漏れた。

「え、うわ……ホントにそっくり……」
「けど、俺その絵は好きじゃねぇよ。何か……気持ち悪ィ」
「この人がフィレイさんなんだ……そりゃ、確かに間違えるよねぇ……」

数度頷いて納得した様子のERRORが、次の瞬間叫び出す。

「そうだ! 逃げなきゃ!」
「お? お、おう?」

俺の手を引いて走り出すERROR
引きずられるようにして部屋を後にした俺たちは、俺が叩き割った窓へ向けて走り出した。

「エース早く!! アイツ、アタシを誰かと結婚させるって言うんだよ!」
「ハァ!? 結婚!!?」
「そう! だから早く!」
「ふざけんな! 結婚なんてさせてたまるかよ!!」

ERRORを嫁にもらうのは俺だ!!
――なんて、さすがに口に出すことは出来ねぇけど。

俺が叩き割った窓まであと少し。あの角を曲がればすぐだ。
走りにくいと喚いたERRORを抱きかかえて、最後の角を曲がったその時。

ERRORを返せえええぇぇぇ!!!」

どこからか、物凄く聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「………タミ?」
「………だよな?」

うん。
何やってんだアイツ。
腕の中のERRORと顔を見合わせて、行き先変更。声のする方へと急いだ。

「ったく、アイツまさか一人で乗り込んだんじゃねぇだろうな!?」
「まさか! そんな危ないことするはず……ない、よ………」

たぶん。
尻窄みになるERRORの声に顔が引き攣る。

有り得る。
タミなら有り得る。

でも、まさか。
そんなはずねぇよ。
だってアイツ、弱ェだろ?
頑張ってんのは知ってるけど、それでもまだまだだ。

「とにかく、急がなきゃ!」
「おう! しっかり捕まってろよ!!」
「うん!」

ぎゅっとしがみ付いたERRORに、ほんの少しばかり疚しい気持ちとか出てきたりするけど、そんな時じゃない。
声の聞こえる方へ全速力で向かった俺たちは、数十秒後、玄関ホールにずらりと並ぶ衛兵たちと対峙するリサ、マルコ、サッチ、タミの姿を見つけた。