タミとはぐれた。
いつの間にかいなくなってたんだよ。気が付いた時にはもうエースと二人きりだった。
すぐに探しに行こうとしたけど、エースが「気を利かせてくれたんだろ」なんて言うから、そうなのかな?なんて思ったりして。迷ったけど、結局エースに手を引かれるままレストランに入ってしまった。
まぁ、街までは一本道だったし、レストランにいるって事も簡単に想像つくだろうから大丈夫だとは思うけど……。
大丈夫、だよね……?
イゾウさんに「タミのこと頼んだぜ」って言われてるから、少し心配だなぁ。
レストランに入って適当に注文してご飯食べ始めたエースも、今はお皿に顔突っ込んで眠っちゃってる。
気を利かせてくれたんだろ、なんて言う割にはいつも通り過ぎるんじゃない?
ちょっぴり緊張したアタシがバカみたいじゃんか。
頭をつんつん突いてみたけど、起きる気配はない。
「タミ、大丈夫かなぁ……」
チラリ。未だにお皿に顔を突っ込んでいるエースを見て、窓の外へと目を向ける。
四角い窓の向こうに見える景色に、タミの姿は何処にもない。
「………探してこようかな」
エースは未だに寝てるし。ずっとここにいても暇だし。
パパッとタミを探しに行って、合流したらここに戻ってくれば良いんだもんね。
うん、そうだ。そうしよう。
「すみませーん」
店主さんに代金を払って、エースのことをお願いした。
万が一エースが先に起きちゃった時の為に、伝言も頼んだし大丈夫なはず。
「よし、タミを探そう!」
タミの好きそうなお店を探せば見つかるだろうか?
それとも、サッチさんの買い出しに付き合ってるのだろうか?
レストランを出て、小走りで進む。
けど、タミらしき人影はどこにも見当たらない。
近くのお店の人にタミの人相を告げて見てないか尋ねてみたけど、誰もが首を横に振る。
「船に戻っちゃったのかなぁ……」
それとも、本当に迷子になってしまったのだろうか。
どうしよう。サッチさんを探して一緒に探してもらおうか?
そんなことを考えて、足を市場の方へ向けた時だった。
「フィレイ!!」
何処かから聞こえた大きな声に振り向けば、身なりのいい初老の男性がこちらを凝視しながら立っていた。その背後には護衛兵らしき人が二人控えているから、きっと身分の高い人なんだろう。
街の人たちが小さな声で「領主様」って呟いているのが耳に届いた。
「フィレイ……まさか、本当に……」
「あ、の……?」
勘違いじゃない。
『領主様』はアタシに話しかけている。
「えっと……多分、人違いかと………」
「人違い? だが――」
言葉を切った『領主様』は、探るような目でアタシをジッと見つめた後、小さな声で何事かを呟いて一つ頷いた。
「すまない……亡くなった娘に似ていてね」
「え?」
眉を下げて申し訳なさそうに微笑む『領主様』。
亡くなった娘さん……。似ているの?アタシが?
「あの……」
「あぁ、すまない。ここにいるはずは無いと分かっていたのだが……驚くほどに似ていたもので……」
「そ、んなに……? 似てるんですか?」
「あぁ、まるで生き写しだよ」
悲しげに微笑んだ『領主様』がそっと目を伏せる。
本当は今すぐにタミを探しに行きたいんだけど……そうですか、さようなら――なんて言ってこの場を離れることも出来ない。
「えっと……」
「すまないね。つい、娘が帰って来たように思えてしまって……」
「あ、いえ……」
「愛する妻に先立たれて、私にはあの子だけが生きがいだったんだ……けど、その子も……」
胸元で拳を握りしめてグッと眉を寄せた『領主様』に、何だかアタシも胸が苦しくなってくる。
もし、リサが死んでしまったら?
もし、エースが死んでしまったら?
もし、サッチさんが、マルコさんが――。
そんなこと、考えたくもない。
「そうだ、良かったら私の家に寄って行かないか?」
「え?」
「美味しいお菓子があるんだ。美味しい紅茶も用意するよ」
「で、でも……」
タミを放ってはおけない。エースだって、いつ起きるか分からない。
「ごめんなさい……アタシ、実は今、人を探していて……」
「それなら、部下に探させよう」
「え!? い、いや、悪いですよ!」
「なぁに、そんなに大きな島じゃないからすぐに見付かるよ。その方々も私の家へ招待しよう。皆で一緒にお茶会でもどうだい?」
「で、でも……」
「本当に娘とそっくりなんだ。そうだ、姿絵があるんだよ、見せてあげよう」
人の好さそうな笑みを浮かべた『領主様』は、有無を言わせない雰囲気を身に纏ってアタシの腕を掴んだ。
タミを探したいと言えば、探してくれると言う。
エースを置いてきたと言えば、起きたら連れて来てくれると言う。
「少しで良いんだ」
「、」
「ほんの少しだけ……娘になってくれないか?」
ほんの僅かな時間だけ。
『領主様』の頼みを断りきれず、アタシは促されるままにお屋敷へと向かった。
タミとエース……大丈夫かなぁ。