明らかに街から離れていってる気がするのはどうしてでしょうか。誰か教えてください。
「ERRORー……エースくーん……」
ぐすん。心細くて鼻の奥がツンとしてきたよ。ここ何処ですか、街は何処ですか。
方向音痴だって自覚はなかったけど、いつの間にかエース君とERRORからはぐれて一人こんな所を歩いているとなると自覚せざるを得ないかもしれない。
「いや、違う! 方向音痴なんかじゃないもん!」
そんなはずがない!だって今まで生きてきて迷子になった事なんてないもん!そりゃ、島でやってたお祭りの迷路では出口見付からなくて大騒ぎになったよ?けど、それはホラ!迷路だし!!路に迷わなきゃ迷路じゃないんだよ!私の方向音痴とか関係ないよ!………多分!!
「ERRORーーーッ! エースくーーーん!!」
「どっこでっすかー!!」って叫んでみても、返ってくるのはザワザワーって風に揺れる葉っぱの音。泣きたい。
明らかに街から離れてってる気はするんだけど、私、街を探してこの道を歩いてきたんだよ。街が後ろにあるなんて考えたくない。この道の先に街はあるはず!そんでもって、ERRORもエース君もこっちにいるはず!いや、もうこの際モビーでも良い!港がありますように!目の前に見えるの木ばっかりだけど!
あーあ、きっと皆も探してるだろうなぁ……でもサッチさんは買い出し班に頼むの忘れてたものがあるから追いかけるって言ってたし、リサは具合が悪いから船に残るって言ってたし……大丈夫かな、リサ……まぁ、マルコさんもリサの看病で残るって言ってたから心配はいらないと思うけど……いや、心配だ。別の意味で心配だ。あ、でも具合が悪いリサにつけ込んで手を出すような事はしないか。そりゃ、私には酷い態度ばっかりだけど、本当は優しいって知ってるし、何よりマルコさんはそんな最低な人じゃない。
「夜には元気になってるかなー」
美味しいもの買って帰ろうかなぁ。この島って何か美味しいものあるのかなぁ。あ、その前に付け毛買わないと。いや、その前にERRORとエース君に合流しないと。その為には街に戻らないと……!!それが一番難しいんだけれども。
「あー、もう疲れたー……ん? あれれ?」
前方に見える真っ白な煙はもしかして……!
慌てて駆け出すこと数分。やっぱり!家があった!!
「――って、あれ? 一軒だけ……」
街は?港は?え、この一軒だけ?溜息と共にその場にしゃがみ込んだ私は、気を奮い立たせる為にほっぺをバチバチ叩いた。ちょっと強く叩きすぎた。きっと赤くなってるだろうほっぺを摩りながら、立ち上がってポツンと建ってる一軒家へと向う。ベルを鳴らすと少ししてドアが開いた。
「………何か?」
「美しさの秘訣を教えてください」
はっ、間違えた!街への行き方を教えてくださいって言おうとしてたんだ。いや、でも仕方ないと思うの。だってね、出てきたお姉さんとんでもなくビューティフォーなんだよ。つい言っちゃったんだよ。ついだよ、つい。ポロっとね。
「………誰?」
ご尤もな問いに「タミです」と答えれば、お姉さんは訝しげに私を見てからドアを開けてくれた。え、入れてくれるの?ラッキー!
家の中は普通だった。いや、そりゃ普通で当たり前なんだけど……こんなに綺麗なお姉さんならもっと豪華な家具とかデデーンと置いてあっても良いのに。服だってそうだ。見るからに高そうな生地だけど、長く着てるんだろう事はすぐに分かる。何処かやつれたようにも見える気がする。
「どうぞ」
「あ、どうも」
テーブルの向かいに腰を下ろして紅茶を差し出してくれたお姉さんにお礼を言って一口啜る。うん、茶葉の種類なんて分からないけど美味しい。お姉さんも一口紅茶を啜るとチラリとこっちを見た。あ、目が合った。美人。
「貴方、おいくつ?」
「へ?」
突然の問いに思わず間抜けな声を出した私は、それでもバカ正直に自分の歳を告げた。するとお姉さんはほんの少しだけ微笑んでまた紅茶を啜った。
「好きな人はいるの? 恋人は?」
不躾な質問が続く。けど別に不快感を抱いた訳じゃない。だって、私に尋ねるお姉さんは何処か楽しそうに笑ってて、来客を喜んでいるようだったから。相手が見知らぬ私でも構わないらしい。
「好きな人、ですかー……うーん、家族はみんな大好きだけど、男の人として好きっていうのは――、」
あれ、おかしいな。一瞬何か過ぎったぞ。おかしい。何故か焼きたてホカホカなフランスパンが浮かんだぞ。気の所為だ、うん。気の所為だ。ぼやけてたからセーフだ。
「いないです。お姉さんは?」
「お姉さん、か……もうそんな歳じゃないんだけど、やっぱりそう言ってもらえると嬉しいわね」
そう言って微笑んだお姉さんはやっぱり美人だった。ただ、何でだろう……一瞬、既視感というか……何だろ。
「私も……いないわ」
「え、そんな美人なのに!?」
思わず大きな声を出せば、一瞬目を丸くしたお姉さんは苦笑を零しながら両手でカップを包み込んだ。
「昔はね、いたのよ……愛してた人が………心から愛してたわ」
そう言って微笑んだお姉さんは、昔を懐かしんでいるのか何処か遠い目をしていた。その目は恋する女の子って感じで何か可愛かった。
「娘もいたのよ。でも……あの人は結婚していたから……」
「何ですと!?」
ふふふ、不倫ってヤツですか!?子どもまで出来ちゃったんですか!?
でも、ちょっと納得した。どうしてこんな所で一人でいるんだろう、って思ってたから……きっと相手は街にいて、会いづらいんだろうなぁ……あれ、でも娘はどうしたんだろう?
「あの子をちゃんとした子に育てれば、あの子は彼の子として認めてもらえると思ってた。そうすれば、あの女を棄てて私と結婚してくれると思ってた……あの女が身篭らなければ」
………物凄いドロドロしてる。こんな事って本当にあるんだなぁ……。
「あの女が身篭った所為で私もあの子も用済み。私は完全に彼に見放されて、こんな所で隠居暮らし」
自嘲の笑みを浮かべながら両手を広げたお姉さんは、疲れたような溜息を零して俯いた。
「あの……娘さんは……?」
「………さぁ」
「さぁ、って……」
「追い出したの」
「え……」
今、何て言った?聞き間違いだよね?そんな思いを篭めてお姉さんを見れば、お姉さんは悲しげに微笑んで同じ言葉を繰り返した。
「追い出したのよ。あの人に棄てられた時に」
「どうして……」
「全部あの子の所為にしたわ。あの人に愛してもらえなかった事も、あの女に子どもが出来た事も、私が認められなかった事も、何もかも全部・・あの子の所為にして、追い出したの。まだ十六だったわ」
「そんな……」
そんなの酷い。だって、話を聞く限りじゃその子は完全に被害者だ。親に振り回されて責任押し付けられて捨てられて……いくらお姉さんが傷付いたからって、そんなのあんまりだ。
私の言いたい事が分かったらしいお姉さんは、また自分を嘲るように笑って紅茶を飲み干した。
「酷い親でしょう」
「………」
「何処から間違ってしまったのかしらね」
そう言って悲しげに微笑んだお姉さんに、私は何も言えなかった。
いつも怒ってばかりだったけど優しかったおばあちゃんを思い出した。
いつもオヤジ様の事を褒め称えてたおじいちゃんを思い出した。
いつも優しかったお父さんを思い出した。
大好きって笑ってくれたお母さんを思い出した。
また会おうってぎこちなく頭を撫でてくれたもう一人のお父さんを思い出した。
無性に、家族に会いたくなった。