05


苛々する。気に食わない。全くもって気に食わない。
ついさっきまではERRORに抱きつかれて、そりゃあ気分も最高だったってのに。

シャンクス達がやって来て、実はERROR達と昔馴染で。スゲェ仲良さそうで。
宴が始まってからずーっとアイツらの所にいるERRORとリサに自然と唇を尖らせてしまうのは仕方ない事だと思う。
やたらと撫で回してくる気持ち悪ィ変態には絡まれるし、良いこと無ェ。

宴がつまんねェって思ったのは初めてだった。

俺の目の前で、俺達と一緒にいる時よりも楽しそうに笑ってるERRORが。
心底気を許しているように振舞うリサが。

「あははっ! もー! ルウ君また太ったんじゃない?」
「そうかァ?」

骨付き肉を加える幹部の一人に抱き付きながら笑うERRORを見て、心臓の辺りがチリチリと痛みを訴える。俺はあんな風にしなきゃ抱き付いてもらえねェのに、昔の知り合いだからってあんなに簡単に抱き付かれてる事が悔しくて仕方ねェ。余りにも自然に抱き付くERRORも、それを当たり前のように受け入れてるシャンクス達も。

俺が、俺達がずっと一緒にいるのに。海に出ようって誘ったのは俺なのに。
ここまでの航海で築き上げてきたものは、シャンクス達との絆に比べたらとんでもなく脆くて頼りないものなんだって思い知らされた気がした。
この一瞬に全て奪い取られてしまうような気がして怖くなった。

俺がシャンクス達に噛み付いた所で、それはただみっともないだけで。きっとそんな俺の姿を見たらERRORは驚くだろうし、リサは何処か呆れたような顔で苦笑するのだろう。最悪、そんな奴だとは思わなかったなんて軽蔑されるかもしれない。

「ぬおおおぉぉ!! リサとERRORを返せえええぇぇ!!」

隣にいたタミがまたシャンクス達の所に駆けていく。自分の感情の赴くままにアイツらに牙を剥いて突っかかるタミが、こんな時ばかりは羨ましい。さっきERRORが抱き付いていた幹部の持つでけェ骨付き肉に形振り構わず噛り付いているアイツは勇者としか言えない。四皇だぞ、シャンクス。

思わず零れた舌打ちは、自分でも分かってしまう程にガキ臭い。斜め後ろから微かに笑う声が聞こえて振り返れば、さっきまでカードゲームをしていたイゾウがそこにいた。

「……何だよ」
「いや? お前も大変だと思ってよ」

ニヤリと煙管を銜えたまま面白そうに口端を上げるイゾウに恨めしげな視線を送れば、それすらも楽しいらしいイゾウが今度こそ声を上げて笑った。これがきっかけでリサ達がシャンクスの船に乗るなんてなったら、自分だって嫌だって思うくせに!俺は絶対に嫌だ。アイツらに奪われるなんて絶対嫌だ!!

強く握り締めると、爪が食い込んだ掌が焼けるような熱さを持った。もしかしたら掌が独りでに炎になっているのかもしれない。それを見てしまえば益々自分のガキ臭さを思い知らされてしまう事になる気がして、意地でも見ないぞと唇を引き結んだ。後ろから聞こえるイゾウの笑い声に苛々して仕方ない。

「まぁ、普段は冷静沈着を絵に描いたような我らが長男がアレだからねぇ……仕方ねェか」

言葉と共に、楽しげに細められた切れ長のイゾウの目が視線が他へ向けられる。その視線を追って顔を向ければ、すぐそこにいるサッチの隣で言葉に言い表せない顔でシャンクス達を睨み付けているマルコがいた。

ちょ、マルコ、おまっ、顔スゲェ事になってるぞ……!!

肩や腕がほんの少しだけ青い炎へと変わっている事に気付いているのかいないのか。チリチリと怪しく揺れる炎はマルコの不機嫌さをそのまんま表していて、それを見るイゾウは楽しげに笑っている。きっとさっきの俺もあんな感じだったのかもしれないと思うと情けなくて恥ずかしくなった。

「…………ダセェ」

俺もマルコも。こんなに悔しくて苛々して、それなのにそれを口にする事も出来ずにここに突っ立っている。

そんな自分の情けなさにポツリと零せば、隣に並んだイゾウが宥めるように俺の肩に手を置いた。

「誰でも譲れねェ事の一つや二つあるもんさ」

譲れねェ。それは分かってる。なのに、それを口にすることも出来ない俺達は、どうしようもないくらいカッコ悪い。いっそ、口にすれば楽になれるだろうか。けど、それをして嫌われたくない。ERROR達がこの船からいなくなるなんて絶対ェ嫌だ。

溜息を一つ零してERRORに視線を戻せば、副船長のベックマンに頭を撫でられて嬉しそうに笑っているERRORが見えた。一瞬でカッとなると同時に、心の奥底が冷えていった気がした。グッと唇を引き結んで拳を強く握って俯くと、聞こえてくるのは楽しげなシャンクスの声。

ERRORが赤ん坊の頃なんか、俺らが風呂に入れてやってだな!」

浴びる程に酒を飲んでハイになってるシャンクスの言葉に、あちこちから「何イイィィ!!?」という声が上がる。ERRORが恥ずかしそうに「止めてええぇぇ!!」なんて叫んでるのを見て思った。

あぁ、もうダメだ。

「リサの乳探してルウの腹にかぶりついてたりな!」
「何それ可愛い!!」

隣に立つサッチが思わず声を上げた。

「風呂場で何度も『俺がパパだぞ』って言ってんのに、何故かベンを見て『パパ』って言ったりよォ、」
「う、うそ!? それ知らない!!」
「あれ、でもERRORの初恋はベンさんだよね? 大きくなったらベンさんと結婚するって――」
「いやああぁぁっ!! もう止めて!!!」

リサの声を掻き消すくらいの声で叫ぶERRORを見たくなくて帽子を目深に被った。ここにいたくねェ。このままここにいたら、ダメだ。折角の宴に水を差すような事はしたくねェから。
ERROR達に背を向けた俺を宥めるように、イゾウの手が肩に乗る。それを無視して船室に引っ込んだ俺は、扉越しに聞こえてくる笑い声から逃げるように部屋へと向かった。