「はい、これが君達の作ったヤツね」
「うわぁ……!」
「え、これ私達が作ったヤツだよね!?」
板の上に置かれたほんの少しだけ歪なガラス細工達に、ERRORとタミちゃんが顔を輝かせた。もしかしたら、私も同じような顔をしているのかもしれない。自分の作ったガラス細工とERROR達とを交互に見つめながらそんな事を思った。
「悪いんだけど、ラッピングはここでは出来ないんだよ。四軒先にそういうのが売ってる店があるから、もしラッピングが必要ならそっちに行ってくれるかい?」
「はーい!!」
「ありがとうございました!!」
「お世話になりました」
従業員さんにお礼を告げて、私達はそれぞれハンカチを取り出して自分の作ったガラス細工を包む。傷をつけないように気を付けながら包むと、それを大切に持って工房を後にした。
「あー、嬉しい!」
「ね! 楽しかった!!」
手の中にあるハンカチを見つめて笑うERRORとタミちゃんはとても可愛い。ラッピングをする為にさっき聞いたお店に向かって歩き出しても二人は手の中のハンカチをジッと見つめている。
「ほら、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」
「わわ、危な……」
言った直後に転びそうになるタミちゃんを助けると、タミちゃんは照れ臭そうに笑いながら謝罪の言葉を口にし、それから興奮を抑え切れない様子でまた口を開いた。
「何かさ、嬉しいね!こういうの」
「自分で作ったものって特別って感じがするよね!」
「そうだね。作るの大変だったから余計にそう感じるのかも」
お世辞にも器用とは言えない私は何度も作り直した。だからこそ、今この手にあるガラス細工がとても特別なものに思えて仕方無い。ERRORもタミちゃんも初めての経験だったから同じように何回も作り直したもんね。出来上がったものを見て興奮が治まらないみたい。前を見て歩かないと危ないけど、嬉しそうに笑う二人を見ているのはとても楽しい。
「でもさ、あのお兄さんも根気強く教えてくれたよねー」
「あー、確かに! 私らいっぱい失敗しちゃったもんね」
「面倒見がいい人で良かったね。こんなに綺麗に出来るとは思わなかったから」
ガラス細工に初めて挑戦するお客さんが多いとは言っていたけど、私達ほど失敗していたグループはいないかもしれない。他のグループの人達の方が進みが早かったし。だから、私達の担当をしてくれた従業員さんは本当に大変だったと思う。感謝してもし足りないくらい。
「ERRORがいっぱい失敗したもんねー」
「そ、それを言うならタミだって……!」
「私は三回しかやり直してないもーん。あのお兄さんとイイ感じだったしねー」
「もう! 何言ってんのさ! フツーに話してただけじゃん!」
揶揄うタミちゃんにERRORが頬っぺを膨らませる。そんな顔も可愛いな、なんて思っていると、視界の端にエース君らしき姿が見えて思わず足を止めた。何だか、表情が固いというか……ショックを受けてるというか……。そんな顔をしていた。
「リサ?」
「どしたの?」
ERRORとタミちゃんも立ち止まる。私の視線の先を見た二人は、そこにエース君と、サッチさんとマルコさんがいるのに気付いた。
「あ、何してんのー!?」
手を振りながらタミちゃんが尋ねると、未だに難しい顔をしているエース君の肩に手を置いたサッチさんが手を振りながらこっちにやって来た。マルコさんがエース君の背を押すとエース君も渋々足を動かしてマルコさんと一緒にこっちにやって来る。
「酒買いに来たんだよ。終わったのか?」
「うん! あのねー、すっごい上手に出来た!!」
ハンカチに包んだままのガラス細工を掲げながらタミちゃんが自慢げに笑うと、ERRORも同じようにして笑った。
この船に乗ってから少しずつ変わっていたのは気付いていたけど、タミちゃんが乗ってからERRORは更に変わったと思う。
それは決して悪い意味ではなくて、むしろとっても喜ばしい事だと思う。今までは私と二人だったから、早く大人になろうとしてくれていたのかもしれない。最近のERRORは子供らしさも見えてきて、内心ホッとしてたりもする。
それと同時に、今までそれだけ無理をさせていたんだなって自分が嫌になったりもする。ERRORは今までも幸せだったって言ってくれるけど、それでも。もっと違う生き方をさせて上げれば良かったのかもしれない、なんて思うことは止められない。結果としてこの船で笑ってるから良いじゃないか、なんて思えない。もっと、ERRORにとっての最善の道を選ぶ事が出来たんじゃないかと思ってしまう。そんな事、口が裂けても言えないのだけれど。
「リサ?」
マルコさんに呼ばれてハッと我に返る。いけない、今は考えては駄目だ。この人はとても鋭い人だから。他の人達に心配かけては駄目だ。
「すみません、ちょっとボーッとしてて……」
「大丈夫かい?具合でも悪ィのか?」
「大丈夫ですよ。ごめんなさい、心配かけてしまって」
微笑んで答えると、マルコさんは一瞬だけ眉を寄せたけどすぐに微笑んでくれた。
「そうかい、なら良いんだ」
気付かないフリをしてくれたこの人は、とても優しい人だと思う。
「んで、どんなの作ったんだ?」
サッチさんがタミちゃん達に尋ねているのが聞こえてそちらを向くと、タミちゃんもERRORも「ナーイショ!」と声を揃えた。エース君は未だに難しい顔をしていた。
「ねぇ、エース? さっきからどうしたの?」
ERRORが尋ねてもエース君は「別に」と素っ気なく答えて顔を逸らすだけ。タミちゃんとサッチさんが顔を見合わせて苦笑してるのが見えた。
「別にって……何か怒ってるの?朝も怒ってたよね?」
「………怒ってねぇよ」
「嘘、怒ってるでしょ」
「怒ってねぇって」
怒ってる、怒ってないを繰り返していく二人。少しずつ空気が悪くなっていくのが分かった。
「だから、怒ってねぇって言ってんだろ」
少し強く言うエース君にERRORはグッと眉を寄せてから傷ついたような顔で俯いた。
「………そう」
「あー……ERROR! ほら、早くお店行こう?」
「エース! とっとと酒買って船に戻んぞ!」
黙り込んでしまった二人にタミちゃんとサッチさんが慌てた風に声をかける。ERRORの腕に自分の腕を絡めて強引に歩きだしたタミちゃんに、ERRORは渋々ながらも足を踏み出して歩きだした。同じようにエース君もサッチさんに連れられて歩き出す。
「………何か……エース君、どうしたんですか?」
隣に立つマルコさんに尋ねると、マルコさんは困ったように笑って首を擦った。
「あー……何つーか……難しいんだよい、男心ってヤツは」
「ERRORが何か気に障る事でもしたんですか?」
朝からエース君は何処か不機嫌そうだったけど、原因が分からない。そもそも、この島に着いてから一緒にいる時間なんて殆ど無かったのに……。ERROR、怒らせるような事をしたのかな?と、そこまで考えて気が付いた。あぁ、何だ。そっか。
「エース君、寂しかったんですかね?」
ERRORと一緒にいられる時間が少なくて、と続けると、何故かマルコさんが照れ臭そうに微笑みながら「まぁ……そういう事だよい」って呟いた。
「昨日、タミとリサから同じ臭いがするって言ってただろい?」
「あぁ、そう言えば……でも、あれは工房の臭いで、」
「工房のって言うより……あー………」
何処か歯切れの悪い言い方をするマルコさんに首を傾げると、マルコさんはガシガシと頭を掻いて溜息を一つ零してそっぽを向いた。私から見えるのは少しだけ赤くなった耳だけだった。
「何つーか……その……他の男の臭いなんざ、ついてて欲しくねぇモンなんだよい」
「他の男……?」
「香水」
素っ気なく教えてくれたマルコさんは相変わらず向こうを向いてて、私から見える耳は相変わらず赤かった。さっきより更に赤くなってるような……?
「香水、って……あぁ、あの従業員さんかな」
言われてみれば、つけてたかもしれない。あの匂いが当たり前みたいになってたから気付かなかった。
「じゃあ、エース君はERRORに従業員さんの香水の匂いがついてたから怒ってるんですか?」
「怒ってるっつーか……拗ねてるっつーか……それに、ERRORがその男と仲良かったとか言ってたろい?」
「あぁ、タミちゃんが……でもアレは揶揄ってただけで……」
「まぁ、そうなんだろうけどな……アイツは特にガキ臭ェからなァ……ERRORが他の男と仲良くして欲しくねぇんだよい」
「そういう、ものなんですか……」
「男心って複雑なんですね」って言えば、マルコさんは漸く私を見てくれた。バツが悪そうな顔で「幻滅したかい?」なんて尋ねてくる。そんな事、あるわけないのに。
「そんな事ありませんよ。それに……大丈夫だと思います」
ERRORがどうしてこんなに必死に作っていたか、私は知ってる。何度もやり直して、それでも諦めなかった理由を知ってる。
「こんなに想ってくれてる人がいるのに、他の人の所になんか行ったりしませんよ」
微笑みながらそう言った瞬間、マルコさんが私に背を向けてしゃがみ込み地面に頭突きをしだした。
「マ、マルコさん!? どうしたんですか!?」
「な、何でもねぇ! それより、早くERROR達んトコ行って来いよい」
地面に両手をついてひたすら頭突きを繰り返すマルコさんが心配だけど、そう言われてしまえば従う他なく。
「あとちょっとで船に帰りますから、帰ったら傷の手当てしましょうね。お部屋行きますから」
そう言ってERROR達を追い始めると、一際大きな音と共に地面に罅が入る音が聞こえた気がした。
ERRORとタミちゃんを追ってお店に入ると、そこには沢山の可愛らしい包装紙やリボンが置いてあった。
「わ、可愛い……」
奥の方にいたERROR達の元へ行くと、ERRORは相変わらず不満げな顔をしていて、タミちゃんは宥めるようにERRORに話しかけていた。
「だから、その……あー……エース君も反省してるし、」
「してるようには見えなかった」
「えと……ERRORと一緒にいられなかったから寂しかったんだと思うよ」
「だからってあんな態度って無い」
取り付く島も与えないERRORにタミちゃんがお手上げ状態で私を見つめた。
「リサー……」
情けない声を出すタミちゃん――それでも可愛いんだけど――の頭を優しく撫でて、ERRORを正面から抱きしめる。頭を撫でると、ERRORの手が躊躇いがちに私の服を掴んだのが分かった。
「………エースのばか」
「うん」
「きらい」
「そっか」
「アタシは……喜んでもらいたかったのに、」
「頑張ったもんね」
「あんな態度……」
「あげるの止めよっか。エース君に」
ブチブチと文句を口にするERRORだけど、私がそう言った途端に黙り込んだ。素直で可愛いなぁ。
「すぐにヤキモチ焼くし、怒るし」
「…………」
「あげても喜んでくれないかもしれないもんね」
「そんな事ない!」
思わず反論したERRORは、バツが悪そうな顔をしてから私の肩に顔を埋めた。
「………ちゃんと言ってないアタシも……悪かった、から……」
「うん」
「……ちゃんと、話す」
「そっか。じゃあ、ラッピングする?」
「………うん」
小さく頷いたERRORの頭を撫でてから放すと、少しだけ潤んだ目と鼻を赤くしたERRORが照れ臭そうに笑った。
「リサ、スゲェ……!!」
後ろにいたタミちゃんが目を輝かせながらそう呟いたのが聞こえる。振り返って「もう包装紙選んだの?」と尋ねると、まだだって教えてくれた。
「じゃあ、うんと可愛いの選ぼうか」
「うん!」
「はーい!」
元気よく頷く二人に、私も自然と顔を綻ばせた。