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「っ、出来たぁ!」

厨房から聞こえてきた声に、私はマルコさん、サッチさん、エース君と顔を見合わせて小さく笑った。
エース君がERRORの手料理が食べたいって言い出してから二日。島に到着して食材を仕入れたERRORは、私達に厨房への立ち入りを一切禁止して篭ってしまった。久しぶりの上陸という事もあって殆どの人達が島へ降り、今現在船に残っている人は少ない。ERRORが作っている間、食堂で談笑していた私達の耳には奥からERRORの奇声や呻き声、溜息などがバッチリ聞こえていた。そのたびに皆で顔を見合わせて苦笑したりしていたんだけど、エース君はERRORの声が聞こえるたびに嬉しそうに笑っていた。

「出来たって」
「ヘヘッ、楽しみだ!」
「上手く出来てるかねい」
「つーか、結構色んな音してたけど……厨房平気か?」

それぞれが思い思いの言葉を口にして厨房の方を見遣る。厨房から出てきたERRORの手には新鮮な魚介類と色とりどりの野菜で作られたパスタ。エース君の前に置かれたそれは見た目も匂いも悪くはない。美味しそう。

「おー! 美味そーー!!」
「へぇ、良い感じに出来てんじゃん!」
「あぁ、美味そうだよい」
「あの……多めに作っちゃったから、一応あるんだけど……食べる?」

躊躇いがちなERRORの言葉に私とサッチさんとマルコさんが頷くと、ERRORは少しだけ嬉しそうな顔をして厨房に戻って行った。うん、可愛い。フォークを持って今すぐにでも食べたいという顔のエース君は、それでもERRORが私達の分を持ってくるのを待っていた。行儀が良いのは良い事だよね。

「はい、ドーゾ」

私達の分のパスタを持って来たERRORが少しだけ照れ臭そうに笑う。ホントに可愛いなぁ。思わず声に出しそうになったのを慌てて手で押さえて、フォークを受け取る。

「「「「いただきます」」」」

声を揃えて、フォークにパスタを巻き付ける。ほぼ同時に口に運んだ瞬間、固まったのはマルコさんとサッチさん。私は慣れてるから普通に食べれるけど、エース君は……あ、ちょっと青い?食べ物だからか、ERRORが作ったからなのか、意地でも食べてやる!って顔で飲み込んでいた。

「……ど、どう?」
「……………ERRORちゃん」

何とか飲み込んだサッチさんが小さな声でERRORを呼ぶ。

「聞きたいんだけど、その……味見した?」
「――あ、忘れてた」
「だよね……」
「え、マズイ!?」

焦った顔のERRORが私を見つめるから、私は微笑んで首を振る。

「ううん、マズくないよ?」
「で、でも……」
ERRORの料理は個性的なだけだもん」
「それ、マズイって事じゃん!!!」

レシピを取り出して何度も何度も読み返しながら、「何処がダメだったんだろ……」なんて半泣き状態で呟くERROR

「ぶっ、ハハハハッ!!」

突然笑い出したエース君を見ると、目に涙を浮かべながら楽しそうに笑っていた。

「エ、エース……? 大丈夫?」
「いや、余りにもマジィから」
「「エース!」」

マルコさんとサッチさんが慌てて叫ぶけど、エース君は笑ってたし、そんなエース君にERRORは何とも言えない顔をしてた。

「食べなくても良いよ?」
「いや、食うさ」
「何でよ、マズイんだから止めなよ。おかしくなるよ」
「俺が作ってくれって言ったんだから、俺が食う」
「でも……」
「ありがとな」
「え?」
「だって、美味くなるように頑張ってくれてたんだろ?」
「でも……マズイじゃん……」
「あぁ、マズイな」

いつもの笑顔で「マズイ」って言ったエース君は、それ以上何も言わずにパスタを食べていた。自分のを食べ終わるとサッチさんとマルコさんから「寄越せ」って奪い取って全部自分の胃に収めてしまった。

「リサもいらねぇんならくれよ」
「ダメ。私のだもの」
「ちぇ」
「エ、エース……? 大丈夫? 胃薬もらってこようか?」
「はぁ? ンなモンいらねぇよ。ごちそーさまでした。ありがとな、ERROR

そうやってまた笑うから、ERRORはそれ以上何も言えずに少しだけ泣きそうな顔で笑った。微笑ましい二人に小さく笑って、私もパスタを食べた。確かに個性的で破壊力抜群だけど、ERRORが一生懸命作ってくれたから残さず食べる。

「ありがと、エース」
「ん?」
「何となく、エースなら「マズイ」って言いながら食べてくれるんじゃないかなって思ってた」
「おう! ERRORが作ったモンなら何でも食うさ! 次は美味いモン食わせてくれよな」
「――うん、頑張る!」

空になったお皿を持ってERRORが厨房に消えた途端、エース君がテーブルに突っ伏した。サッチさんが水を渡すと一気に飲み干してもう一回テーブルに突っ伏す。

「お前……勇者だな」
ERRORが作ったモン無駄にする訳ねぇだろ」
「リサ、大丈夫かい?」
「私は慣れてますから。それに、今までより遥かに美味しく出来てますよ?」

暇を見つけては本を読み漁ってたからかもしれない。奇抜な味なのは変わらないけど、前回に比べて遥かに人の食べれる味になってる。だからエース君だって食べ切れたんだろうし。

「………どうやったらあの味になるんだ?」
「さぁ……でも、良いんです。ERRORが作ってくれたならどんなものでも食べますから」

ERRORはちゃんと分かってる。自分の作ったものがとんでもなく不味いって事を分かってる。分かった上で誰かの為に作るのはとてつもなく勇気がいる。それを分かってるから、エース君はちゃんと全部食べてくれた。

「惚れた弱みってヤツかなぁ」
「ん?」
「エース君、ありがとね。ERRORの作ったもの残さず食べてくれて」
「食いてぇって言ったの俺だからな。それに、俺も何だって良いんだ。ERRORが作ったモンなら」

まだ少しだけ青い顔をしてるけど、いつもみたいに明るく笑うエース君の頭に手を伸ばす。いつもは帽子に隠されている髪を撫でると、目を丸くしたエース君が一瞬で赤くなった。

「な、何だよ!?」
「カッコイイなぁ、と思って」
「は!?」
「よかったね、エース君」

目を丸くして大声を上げたエース君は、私の言葉に今度は「は?」って首を傾げた。

「何が?」
ERRORの作ったモノ食べれない人に、ERRORを渡す訳ないでしょう?」
「………危ねぇ! 俺、危ねぇ……ッ!」

噴き出る汗を拭いながらホッと息を吐くエース君に笑ってると、サッチさんが「あー……リサちゃん?」って声をかけてきた。

「はい?」
「それって、リサちゃんにも言える事?」
「どういう意味ですか?」
ERRORちゃんの飯を食えねぇ男はリサちゃんの相手にもならねぇって事?」
「当然でしょう?」

にっこり笑えば、目を泳がすサッチさん。その時厨房からパタパタという足音と共にERRORが戻って来た。

「洗ってくれたの?」
「うん」
「ありがとう」

可愛く笑うERRORに微笑み返して立ち上がり、部屋へ戻る為に歩き出す。

「リサ? 部屋に戻るの?」
「うん、ごちそうさま。前よりすっごく美味しくなってた」
「ホント!?」
「うん、また食べさせてね」
「うん!! 次はもっと頑張る!」

嬉しそうに顔を綻ばせるERRORに笑い返して、食堂を後にした。

「………ERROR、次は俺も全部食うよい」
「へ? いや、無理しなくても……」
「食うよい」
「………はぁ……そう、です、か……?」
「命懸けだな、マルコ」
「リサに何か言われたの……?」
ERRORちゃんの飯が食えないような奴は論外だって………けど、大丈夫か? 下手したら死ぬぞ?」
「死ぬ気になりゃァ出来ねぇ事ァねぇよい」
「失礼だなこのオッサン共」

そんな会話が交わされていたことを私は知らない。