「腹減ったー! なぁ、何かくれよー……」
夜中の盗み食いが出来なくなったから(だってリサめっちゃ怖ェ!!)、俺は腹が減ったら素直にリサに頼みに行くようになった。食堂にはリサとマルコが二人で座ってて、あれ、これもしかして俺やっちまったか?って一瞬だけ後悔したけど、直後に鳴り響く腹の音で、あ、やっぱり無理だ。我慢出来ねぇとマルコの視線を無視してリサに歩み寄った。
「何か食いモンねぇ?」
「エース君、寝たんじゃなかったの?」
「腹減って起きちまった」
食堂の壁に掛けられてる時計を見れば夜中の三時を指してる。あぁ、早く食ってもう一回寝てェなぁ。
「つーか、リサもマルコもこんな時間まで起きてたのか?」
「朝ご飯の仕込みをしてたんだよ。終わった頃にマルコさんが来たから一緒にお酒飲んでたの」
「マルコは何してたんだ?」
「どっかのクソ餓鬼が遅れて出してきやがった書類と睨めっこしてたよい」
「すみませんでした!!」
あ、俺の所為か、と思った時には身体が勝手に立ち上がって頭を下げてた。マルコの顔が般若に見えて仕方ねぇ。ここは大人しく従っておかねぇと殺される。目がマジだ。
「提出期限は守れ」
「はい!」
「読める字を書け」
「はい!」
「今すぐ部屋戻って寝ろ」
「は――それは無理だ! 腹減った!!」
頷きかけて慌てて訂正するとチッて舌打ちが聞こえる。怖ェよ!邪魔したのは悪かった!でも腹減って死にそうだ!
「盗み食いしなくたって、夜中に一人だけ食ってたら変わんねェだろい」
「でも腹減ったんだって……このままじゃ死んじまう!」
「いっそ死んで来いよい。一日三食で満足出来る身体になったら帰って来やがれ」
「まぁまぁ」
酷ェ!!って叫ぼうとした所に、どっか行ってたリサが戻って来た。その手には美味そうなおにぎりとサラダがある。
「夜中だからあまり食べるのもどうかと思ったんだけど、その分ちゃんと身体動かしてるしいっぱい寝てるから大丈夫だよね。でも、ちゃんと胃を休める時間を作ってね」
「美味そーーッ!! いただきます!」
目の前に出されたおにぎりを手に取って食い始めると、リサはマルコの隣に座って酒の入ったグラスを取った。あ、そういやここリサが座ってた席だ。
「大丈夫かい?」
「何がですか?」
「食糧」
少しだけ苦い顔で俺を見てるマルコは、きっと食糧が足りなくなる事を心配してるんだろう。確かに、これでおにぎり二つ分とサラダ一皿分の食糧が無くなっちまったからなぁ……。いや、食いてぇって言ったの俺だけど。
「あぁ、大丈夫ですよ。それは船の買い出しとは別で買ったものですから」
「ほうなのは?(そうなのか?)」
口の中に詰めながら尋ねると、リサは「ちゃんと飲み込んでから喋ってね」って笑った。
「私が個人で買った食材を使って作ってるから大丈夫。新しいメニューを考えたりする為に買って冷蔵庫に入れさせてもらってるの」
「へぇ、そうなのか」
飲み込んでから頷いて、それから「ん?」と首を傾げた。
「それ、俺が食っちまって平気なのか?」
「大丈夫だよ。多めに買ってるから」
「だから気にしないで」って笑うリサに礼を言って食い進める。あっという間に食い終わっちまった皿をリサが流しに持って行くのを眺めながら、俺も酒をグラスに注いで一気に飲み干した。
「あー、美味かった! 良かった、リサが多めに買ってくれてて」
「馬鹿かい、お前は」
「んぁ?」
心底呆れたように俺を見るマルコ。何だよ、俺だけリサの作ったモン食ったのが気に入らねぇのか?
「『お前用』に多めに買ってあったに決まってんだろい」
「………そうなのか!?」
「普通に考えて、それしかねぇだろうが」
新メニューとか全部嘘なのか!?
「ウチのコックが新メニュー考えるのに自腹で食材買ってた事あるかい?」
「あぁ……そりゃ、確かに……」
「味見だってコック達全員でやるんだ、メニュー考案用として金が渡されてるってのに、リサが自腹で買っておく理由なんざそれしか浮かばねぇだろい」
気に入らねぇのか、自分で説明しながら舌打ちするマルコに俺は成程な、と頷いて少しだけ笑った。
「そっか、俺の為かァ!」
「喜んでんじゃねぇ。お前の為に食材買ってる分、自分の為に使えなくなってんだって分かれよい」
「あ……そっか、そうだよな」
「それなのに、ERRORの服やら何やらばっか買っちまうから、リサは自分のモン殆ど買ってねぇんだよい」
「親バカだからなぁ、アイツ」
俺の為の食糧とERRORの為の服やらを買って、自分のモンは殆ど買ってねぇのか。そういや、島に降りるたびに街へ行っても、ERRORに「服買って来ちゃった」とか「これ可愛かったから、ERRORに」とか……ERRORの事ばっかだったなぁ。
「分かったら、少しは我慢しろい」
「おう! 少しだけ頑張る!」
少しだけな!だって、リサが作った飯美味いんだ!それに、リサがしょうがねぇな、って顔で飯出してくれんのが嬉しいんだ。母ちゃんってこんな感じなんかな、って思う。
「つーか、お前よぉ。こういうのは普通ERRORに頼むんじゃねぇのかい?」
「………おぉ!!」
そういや、俺ERRORの飯食った事ねぇ!!食いてぇ!!
「よし! 明日はERRORに頼んでみる!!」
「明日は止めた方が良いんじゃないかな」
厨房から戻って来たリサが困ったように笑ってた。きっと、俺が食った後の皿を洗って拭いてたんだろう。ホント母ちゃんみてぇだ。
「? 何でだ?」
「んー……次の島に着いてからが良いと思うの」
「どうして?」
「…………ほら、エース君。もう寝た方が良いよ」
話逸らされた。何だってんだ?首を傾げてリサを見続けるけど、リサはもういつもみてぇに優しく笑って「おやすみ」って言うだけ。何なんだよ?
「教えてくんねぇのか?」
「そういう訳じゃ無いけど………じゃあ、ERRORに直接言ってみたらどうかしら?」
「何て?」
「『ERRORの作ったご飯食べたい』って」
「明日で良いのか?」
「………うん」
「多分断られると思うけど……」ってスッゲェ小せぇ声で呟くリサに、俺は益々首を傾げた。けど、まぁ良いや。明日ERRORに聞いてみりゃ良いんだろ?
「分かった! じゃあ明日言ってみる! おやすみ!!」
「おう」
「おやすみなさい」
マルコとリサに手を振って食堂を出て部屋に向かう。満腹じゃねぇけど、美味い飯食えたし、満足だ!良い気分で目を閉じると、睡魔はすぐにやって来て俺は抗う事なく意識を手放した。
「………俺が言っておいてアレだが、ERROR、料理出来んのかい?」
「見た目は凄く美味しそうなんですけど、味が奇抜というか……個性的というか……」
「………そうかい」
俺がいなくなった後の食堂で、マルコとリサがそんな会話をしてたなんて知る由もない。