白ひげ海賊団に仲間入りしてから、初めての敵襲。厨房での仕事を終えて甲板に出て行くと、オヤジさんが専用の椅子にどっかりと腰を下ろしていて、その傍にはオヤジさんを護る為に隊長さん達が控えていた。
「お、リサちゃん!」
サッチさんが私に気付いて手を振ってくれたのでそっちに向かった。こっちの甲板には敵の姿は見えない。敵船に乗り込んで戦ってるようだった。時々敵船から炎が上がっているのはエース君かな。
「ERRORも、行ってるんですよね」
「あぁ……二番隊だからなぁ……」
困ったように笑うサッチさんに微笑み返したけど、多分私もちゃんと笑えてはいないと思う。
「心配?」
「……大切な娘ですから……でも、そうじゃなくて……」
「え?」
怪我をしないかって事も勿論心配だけど、それよりも心配なのは――、
「――ERRORの様子がおかしいな」
ポツリと呟いたマルコさんの声に目を凝らして敵船を見つめると、甲板でエース君に抱きしめられてるERRORが見えた。
「ERROR……」
「……まさか、どっか怪我しちまったのか?」
「そうは見えねぇよい」
確かに、ERRORが怪我をしているようには見えない。エース君が何かを言いながらERRORの背中を撫でている。あぁ、やっぱり……。
「………あの子、初めてなんです」
「え?」
「………人を、殺すの……」
少し離れた船から銃声が聞こえる。沢山の声。剣と剣がぶつかり合う音。斬られるたびに、銃で撃たれるたびに上がる血飛沫。エース君に背を撫でられているERRORが少しずつ少しずつ落ち着きを取り戻していくのが見える。何度も何度も深呼吸を繰り返して、顔を上げたERRORがほんの少しだけ笑って涙を拭いている。泣き顔なんて、見たくないのに。
「――覚悟、してたはずなんですけどね」
海賊船に乗る事がどういう事か、ERRORだって分かっていたはず。覚悟を決めてこの船に乗ったのだから。細い手で握り締めた剣を振って敵を斬り倒していくERRORはまだ苦しそうな顔で、けど、もう迷いは見られなかった。
暫くして、敵を全滅させる形で戦いは終わった。エース君や他の隊員達と一緒に船に戻って来たERRORはほんの少しだけ青褪めていたし涙の跡が残っていたけど、笑っていた。サッチさんやマルコさん達に頭を撫でられながら私の所にやって来る。
「ありがとう」
「え?」
「助けてくれて、ありがとう」
「っ、」
乾き始めていたERRORの目がまた潤み始めて、溢れた雫が頬を伝った。私に抱き付いたERRORが小さな声で「ごめん」って呟いた。何度も何度も「ごめん」を繰り返すERRORを優しく抱きしめて、私はただ「ありがとう」ともう一度だけ繰り返した。
「ERROR……」
オヤジさんと話を終えたエース君が私達の所にやって来てERRORの名前を呼ぶ。ERRORはゆっくりと私から離れて、涙に濡れた顔で笑った。「もう大丈夫」と笑ってエース君と一緒に船室へ行くERRORの背中を見つめていると、大きな手が私の頭に乗った。
「オヤジさん、」
オヤジさんは何も言わずにただ、優しく私の頭を撫でてくれた。加減が難しいのか首が痛くなるくらい強かったけど、温かくて、少しだけ泣きたくなった。
「……大丈夫、ですよ。ERRORは強いんです」
「グラララ、ERRORだけか?」
「言うまでもないです。だって、」
『母は強し、なんですよ』
軽く眉を上げたオヤジさんは、さっきより大きな声で笑った。