02


「おーーい! エースー!?」

エースの名前を呼びながら船の中を歩き回るけど、中々見つからない。船が広すぎるのが悪いんだ。甲板はいなかったし、部屋にもいなかった。食堂にもいないとくれば……

「何処だろ?」

アタシとリサがこの船に乗ってから九日。その三箇所以外でエースを見た記憶は無い。もうすぐ島に着くって聞いたから一緒に下りようと思ったのになぁ……。

「もー、じゃあリサと行こうかなぁ……」

でも、マルコさんが誘ってたら悪いしなぁ……リサの事だからアタシに断るんじゃなくて「じゃあ三人で行こうか」なんて言い出すに決まってる。それはさすがに嫌だ。

「エースーーー?」

もう一回甲板に出て大きめにエースを呼ぶ。あちこちから「エース探してんのか?」「そういや見ねぇな」なんて声が飛んでくる。エースの行方は分からないまま。

「もーーーー! 知らない! 一人で島に下りちゃうんだからね!」
ERRORちゃん」

ウガーッ!て両手を上げて叫んでると、後ろから聞こえたサッチさんの声。振り返れば何が面白いのか楽しそうに笑ってるサッチさんがいた。

「エース探してんの?」
「そう、いないの。知らない?」
「アイツならオヤジの部屋にいたぜ」
「オヤジさんの?」

そう言えば、オヤジさんの部屋には行ってなかった。ありがと、とサッチさんにお礼を言ってオヤジさんの部屋がある方へ向かう。エース、オヤジさんの部屋にいたのかぁ……何してんだろう?

「あ、マルコさん」

オヤジさんの部屋へ行くと、丁度マルコさんが部屋から出てきた所だった。

「マルコさんもオヤジさんに用事?」
「あぁ、この先の針路の事でな。ERRORもオヤジに用かい?」
「サッチさんにね、エースがここにいるって聞いたの。いる?」
「エース? エースなら、俺と入れ違いで出てったよい」
「え、ホント?」
「腹減ったって言ってたから食堂にでもいるんじゃねぇかい?」
「そっか、ありがと!」

食堂は甲板とは逆方向。マルコさんにお礼を言って食堂に向かっていると、アタシがエースを探していた事を知ってる皆が「エースなら食堂に走ってったぞ」って教えてくれた。

「エースーー!」

名前を呼びながら食堂に入って行くと、のんびりお茶を飲んでるリサとジョズさんがいた。

「あれ、エースは?」
ERRORが探してるって言ったら甲板に走って行ったぞ」
「えぇ!? もー……」

大きな溜息を吐いてテーブルに突っ伏すと、リサの温かい手がアタシの髪を優しく撫でた。リサの手は気持ち良い。ちょっと恥ずかしいけど、リサの手に撫でられるの大好き。悲しい時、具合が悪い時、いつだってこの手に助けられてきた。嬉しい事があった時に撫でられると、嬉しさ倍増なんだから!リサの手は魔法の手だ。

「待ってたら戻って来るんじゃないか?」

大人しくリサに頭を撫でられているアタシにジョズさんの声が降ってくる。この人、大きいし顔怖いけど優しいんだよね。この船の人達は皆そう。

「んー……ううん、探してくる」

探しても見つからないってのは寂しい。きっとエースもアタシを探しながら寂しい思いしてるかもしれない。

立ち上がって食堂を出ていくアタシの背後でリサとジョズさんが笑う声がした。

甲板に出て行くと、さっきからそこにいた人達が揃って「エースがERROR探してたぞ」って教えてくれた。

「エースは?」
「オヤジの部屋に向かったって言ったら行っちまった」
「えー!? もーーー!」

また同じ道をグルグルしなきゃならないの!?そんな事をブツブツ口にしながら、アタシの足はオヤジの部屋へと向かう。少しでも早く追い付く為に走っていると、曲がり角からイゾウさんが出てきた。男のくせに色っぽいイゾウさんは、アタシに気付いて喉を鳴らしていた。笑い方とかは男らしいんだよね。

「エースが探してたぜ」
「知ってる。アタシも探してるの」
「さっきそこでマルコに、ERRORが食堂に向かったって聞いて走ってったぞ」
「ありがと! もーー、エースーーーッ!! 待ちやがれーーーーっ!!!」

意地でも探し出してやる!!乱雑な言葉を口にしながら食堂に走って行った私は、後ろでイゾウさんが「若いって良いねぇ」なんて呟いていた事を知らない。

「エースッ!!!」
ERROR!!」

食堂へ走っていると、向こうから走ってくるエースの姿が見えて思い切り叫んでしまった。アタシと同じくらい大きな声でアタシを呼ぶエースは満面に笑みを浮かべていて、けど今のアタシにはそれすら苛々するものでしかなくて。

「ぶはぁっ!!」
「ウロチョロすんなバカッ!!! 同じトコ何ッ回も何ッ回も走り回っちゃったじゃん!!」
「悪ィ悪ィ、ごめんな?」

殆ど八つ当たりなのに、エースがそんな風に笑うから、アタシは殴った事を後悔してエースの傍にしゃがみ込んだ。

「………ごめん、八つ当たり」
「これくらい何て事ねぇよ。ありがとな」
「……殴ってお礼を言われるとは思ってなかった」
「バカ! ンな事するか! 探してくれてたんだろ?」
「あぁ……うん、もうすぐ島に着くでしょ? 一緒に行かないかなぁと思って」

うわ、何か恥ずかしくなってきた。デート誘ってるみたいじゃん!いや、そう、なんだけど……多分……でも、うーん………。少しだけ熱くなった顔を手で抑えながら、黙り込んだままのエースをチラと見上げて――え、何でそんな変な顔してんの?嬉しそうな顔したのは一瞬で、今は泣きそうに歪んでる。え、何?何?

「エース?」
「…………ごめん、ERROR
「え?」
「俺……お前と一緒に行けない……」
「……………」

何で?好きって言ったくせに?そりゃ、アタシまだ返事してないよ?けど、まだ十日も経ってないんだよ?なのに、もう良いの?行きたくないの?アタシの事、もう好きじゃないの?

「俺……ッ、実は……」
「――分かった」
「え?」
「良いよ、こっちこそごめんね。気にしないで他の人と行って来なよ」
「ちょ、ERROR――」
「アタシ、先に食堂行ってる!」
ERRORッ!!」

エースの声から逃げるように食堂へ走って行った。食堂のドアを勢いよく開けると、リサがすぐに目に入った。ジョズさんはもういなくて、代わりにマルコさんとサッチさん、イゾウさんがいた。

ERROR?」

アタシの顔を見てイゾウさんが驚いた声を出す。うん、多分泣きそうだよね。

「どうしたんだ? ERRORちゃん」
「エースに会えなかったのかい?」

サッチさんとマルコさんも心配そうにアタシに話しかけてくるけど、答えられなかった。動く事も出来ない。

ERROR、おいで」

優しいリサの声が聞こえて漸くアタシの身体が動く。リサに抱き付いて、魔法の手がアタシの頭と背中を優しく撫でた瞬間、涙が溢れた。

「うーー……」
「よしよし」

何も聞かずにただ泣かせてくれるリサに、アタシは唸り声みたいなのを出しながら泣き続けた。

ERROR、どうした?」
「エースと何かあったのか?」

イゾウさんとサッチさんの声が聞こえる。

「………潰してくるかい?」
「お願いします」

マルコさんの静かな声にリサの優しい声が即答する。え、ちょっと待って……!潰すって何!?潰すって何!?お願いしますって何!!?

「ちょ、待っ――」
ERRORッッ!!」

アタシの声を掻き消したのはエースの大きな声。次の瞬間、聞こえたのは一発の銃声と何かを殴り飛ばすような鈍い音が二つ。エースの「ブフォアッ……!」なんて変な声。

「あ、あの……」

おそるおそる顔を上げようとすると、リサの手がアタシの顔を自分の胸に押し付けた。

「まだダメ。大丈夫、死なない程度にしかしてないから」
「ちょ……っ!!? ま、待った! エース!!?」

慌ててリサの手を抜け出して状況を確認すると、銃を手にしたままそこに座ってるイゾウさんがいた。あの、銃口が白い煙吐いてますけど……。エースの方を見てみれば、マルコさんに首根っこ掴まれて持ち上げられ、「ERRORちゃんに何しやがった? あぁん?」なんてサッチさんにお腹グリグリされてるエースの姿。ちょ、顔歪んでる……っ!あ、アレはアタシか。

「で? ERRORを泣かした馬鹿は何処のどいつだい?」
「ず、ずびばぜ……」
「あぁん? 聞こえねぇなぁ。おい、マルコ、聞き取れたか?」
「全く。イゾウは?」
「さてねぇ、汚ェ雑音が聞こえたような気はしたけどなぁ。リサ、何か聞こえたか?」
「あら、誰か何か言ってるんですか?」

怖い怖い怖い!!誰だよこの人達イイ人って言ったの……っ!!!アタシだけどっ!!リサまで……っ!!

「も、もう良いから……っ!! エース死んじゃう!」
「大丈夫よ、ERROR。仲間殺しはご法度だって言ってたでしょう? 虫の息にする事は殺す事と同義じゃないわ」
「リサーーーッッ!!? 怖い事言わないで! 虫の息って死ぬから! 直後に死ぬから!! マルコさんサッチさんホントにもう良いですから!! イゾウさん銃構えないで……っ! アタシが悪いんです! 一緒に島に降りようって言って断られただけなんですっ!! ちょっと悲しくなっちゃっただけで……っ、」
「おいエース。テメェ何断ってんだ? あ? 何様だ?」
「ちょ、だって……っ!」
「どうせ紛らわしい言い方しやがったんだろい」
「じゃあ代わってくれよ!!」
「「断る」」
「ヒデェッ!!」

話がよく分からない方向に進んでいった。今、あの三人は何の話してんの?リサとイゾウさんを振り返ると、微笑んだままのリサ(え、まだ怒ってる?)と煙を吐き出しながら喉を鳴らすイゾウさん。

「あの、?」
「そこのバカ、今回は上陸出来ねぇんだ」
「え!? また盗み食い!?」

イゾウさんの言葉に驚いてエースを見た。リサにお仕置きされたのに!?

「やだな、ERRORちゃん。私がそんな事させると思う?」
「………ですよね。じゃあ、何で? 何したの?」
「クジ運が悪かっただけさ」
「クジ運?」

喉を鳴らすイゾウさんにアタシはまた首を傾げる。マルコさんとサッチさんはエースで遊んでる。髪の毛引っ張ったり頬っぺ引っ張ったり。そのたびにエースが「いででででっ!」って叫んでるけど。

「クジで決めんだよ、船番や買い出し隊。で、エースは今回運悪く船番を引いちまったって訳さ」
「あ……そーゆー事……」

だから行けないって言ったのか……「お前と行けない」なんて言うから、嫌われたのかと思っ――

「ご、ごめんエース!!」

アタシの勘違いの所為でマルコさんにもサッチさんにも殴られてイゾウさんに銃ぶっ放されて……ごめんしか言えない。

「ホンットにごめん!!」

エースに駆け寄って顔の前で両手を叩いて頭を下げると、漸くマルコさんとサッチさんがエースを解放した。

ズルズルと崩れ落ちたエースは、笑ってた。

「良いさ、俺の方こそごめんな?」
「エース悪くないのに! ごめん! アタシも殴ってごめん!!」

何回謝っても足りない。本当に本当に悪い事しちゃった。

「アタシも一緒に船番するよ」
「は? ERRORは行って来いよ。初めての上陸なんだから楽しんで来いよ」
「良いの! それに、初めての上陸はエースとしたいもん」

島で暮らしてたアタシに「一緒に行こう」って誘ってくれたのはエースだから。島を出るきっかけをくれたのはエースだから、最初の島はエースと一緒に降りたい。そう言ったら、エースの顔から火が出た。というか、エースの顔が火になった。ちょ、何!?

「何でいきなり火出すの!?」
「何でもねぇ!」
「何でもなくないじゃん!!」
「あーあ」
ERRORも罪作りな女だねぇ」
「船燃やすんじゃねぇぞい」
ERRORに火傷させないでね」

サッチさん、イゾウさん、マルコさん、リサののんびりした声が聞こえる。ちょ、助けて!

「エース? 大丈夫?」
「………おう」

漸く鎮火したエースが小さく頷きながら帽子を目深に被る。え、何でそんな事すんの。アタシの顔は見れないってか。

「……次は、絶対上陸するから」
「エース?」
「だから、一緒に遊びに行こうな」

顔を上げて太陽みたいに眩しい笑顔を向けてくれるエース。

「――うんっ!!」

アタシも満面の笑みで肯けば、も一回エースの顔が火になった。だから何!?