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「くぉら! エース!! 待ちやがれ!!!」

ERRORとリサを乗せて出航してから一週間。モビーディック号は次の島に向けて順調に航海を続けていた。天気が良いからと甲板で煙をくゆらせていると遠くから聞こえるサッチの怒鳴り声。数秒後、エースが船室から勢いよく飛び出してきた。そのすぐ後ろにはサッチもいる。

「テメェ!! また盗み食いしやがって!!! 今日という今日は赦さねぇぞ!!」
「お、俺じゃねぇぞ!」
「顔中にトマトの汁付いてんだろうがああぁぁっっ!!! 食いながら寝た証拠だろ!!」
「ヤベッ!」

慌てて顔を拭くが、時既に遅し。甲板中を逃げ回るエースと、鬼の形相で追い駆けるサッチ。おーおー、リーゼントが揺れてんぞ。甲板で暇を持て余していた奴らが楽しげにサッチとエースで賭けを始めている。フゥ、と煙を吐き出してそれを眺めていると何処からかやって来たERRORがポケットから取り出した一万ベリーを叩き付けて笑った。

「リサに一万」
「は?」
「リサちゃん?」
「何でリサちゃんなんだよ?」
「サッチとエースだろ? つーか、ありゃ他の奴らは入れねぇって。エースもサッチもキレそうだしよ」

素直に捕まらないエースに痺れを切らしてきたサッチと、しつこいサッチに逆ギレし始めるエース。確かに、こりゃ面倒な事になりそうだ。いくら強くたって、リサが入り込むのは難しそうだ。だが自信満々のERRORを見て俺もニヤリと口端を上げた。

「おい、俺もリサに一万」

懐から取り出した一万ベリーをヒラヒラさせるとERRORが楽しげに笑ってやって来た。

「さてさて、どうなるかねぇ」
「まだ出会って二週間だからしょうがないけどさ、みーんなリサを理解ってないよ」
「へぇ?」
「アタシとリサ、お店やってたんだよ?」
「それが?」

騒ぎを聞き付けてやって来たビスタが俺の隣に腰を下ろしてERRORに問いかける。

「お金関連はアタシが受け持ってたけど、食材管理とかは全部リサだったの」

あぁ、そういう事か。

「だが、それでもあの二人に割って入るのは難しくないか?」

とうとう燃え始めたエースと、サーベルを取り出したサッチ。被害に遭わないようにと避難してる奴らが見える。

「そんな事、関係無いでしょ? だって――」

ERRORが楽しげに笑うと同時に、小さな水音とバキッという鈍い音が響き渡る。音の発信源を探れば、そこにはサッチを蹴り飛ばしたマルコと、エースにバケツの水をぶっかけたリサの姿。あぁ、そうか。リサは猛獣(猛鳥?)を飼い慣らしてんだった。力を無くしてエースが倒れ込んだのを見て、あれが海水なんだと分かった。

「ありがとうございます、マルコさん」
「サッチ、リサの手間増やしてんじゃねぇよい」
「ちょ、だからって理不尽……っ! リーゼントは止めて!!」
「さて、エース君」

ヘロヘロになって力無く倒れるエースの前にしゃがみ込むリサはいつものように笑顔だった。

「この一週間、君の盗み食いに目を瞑ってきたけど、今日はダメ。赦してあげない」

にっこり笑ってそう言うと、リサはマルコに「じゃあ、お願いしますね」と呼びかけた。サッチのリーゼントを軽くへし折ったマルコがエースに歩み寄って、首根っこを掴む。海水を浴びて力の入らないエースの足を縄で縛って、もう片方のロープの端をマストに巻き付けてエースと繋いだ。

「ちょ、マルコ……」
「自業自得だよい」
「待った……! 俺、嫌な予感が……っ、」
「エース君」
「はいっ!!」
「たっぷり反省してね」

リサがにっこり微笑むと同時に、マルコがエースの身体を船の外へ放り出す。つまり、海へ。ガンッという鈍い音と、「ブヘッ! ガ、ガガガガッ、ゴボッ、ブハッ、ブ、ビバベ……ッ」というエースの気持ち悪ィ声。立ち上がって身を乗り出してみりゃ、逆さ吊りにされて船があげる水飛沫をもろに顔面で受けてるエースの姿が見えた。さっきのガンッて鈍い音は船体に身体を打ち付けた音だな。おーおー、酷ェ顔。

「マルコさん、ありがとうございました。後で引き上げてもらって良いですか?」
「あぁ。まぁ、うっかり忘れちまうかもしれねぇが……何せ、俺もまだ仕事が残ってるからよい」
「手が空いた時で構いません、よろしくお願いしますね。じゃあ、私は厨房に戻ります。サッチさん、行きましょうか」
「………はい」

青褪めてるサッチと一緒に船室に戻って行くリサ。エースを顧みずに仕事に戻るマルコ。

「よしっ! アタシとイゾウさんの勝ちーっ!!」

賭けに買ったと喜ぶERROR。エースの心配は露ほどもしてない。哀れエース。クルー達が青褪めてるのは果たして賭けに負けたからなのか、リサの恐ろしさを見てしまったからなのか。

「………えげつないな」

小さく呟いたビスタの声に頷きながら、こっそり賭けに買った事を喜んだ。

数時間後、夕食の時間になっても姿を現さないエースにリサが首を傾げた。

「あら、エース君は?」
「――あぁ、そういやすっかり忘れてたよい。仕事が忙しくてなぁ」
「そうですか。まぁ、仕事なら仕方ありませんよね」
「急いで引き上げて来るよい」
「お願いしますね」

急ぐと言いながらのんびり飯を食っているマルコと、そんなマルコににっこり微笑んで厨房へ戻って行くリサ。食堂中が青褪めている中、マルコと同じように飯を食らっていたのはERRORと俺だけだった。

「しょうがないよ、盗み食いするエースが悪いんだし。そういう悪い癖は早く直さないとね」
「………ERRORちゃん、もしかして君もあんな目に……?」
「まさか」
「だよね!」

ホッとするサッチとその他クルー。馬鹿だなお前ら。俺だってマルコだってちゃんと理解したぞ。

「あんなんで済む訳ないじゃん」
「………は?」
「アタシがエースと同じ事してたら、多分三日間は吊るされてるよ。その間もちゃんとご飯食べさせてくれるだろうけど、多分吊るされたまま下ろしてくれないだろうし。大分手加減されてるよ、エース。羨ましいなぁ」

リサに逆らうべからず。その後、エースの盗み食いはパッタリ止んだとか。