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リサが現れた頃、俺とオヤジは甲板に出て来て一部始終を眺めていた。エースに冷たい言葉を吐き捨てるリサを。ERRORに冷たい視線を向けるリサを。俺らを侮辱するリサを。
けど、怒りは湧かなかった。代わりに浮かんだのは、深い深い悲しみだった。

なぁ、リサ。お前今、どんな顔してんだい?

「グララララ! もう良いだろう」

泣きじゃくるERRORが帽子を目深に被って涙を隠してるエースと一緒に甲板に上がって来ると、オヤジが言った。

「リサ、テメェもとっとと来やがれ」
「っ、オヤジ……!!」
「何でだよ……っ!」
「アイツは俺らを――っ、オヤジの事だって……!!」

船員達が上げる非難の声を、オヤジはもう一度声を上げて笑い飛ばした。

「馬鹿野郎が。テメェら、リサが言った事に一つでもおかしな事があったか?」
「それは……っ、でもオヤジ……!」
「言い方は悪かったが、自分のガキを想う親なら当然の事だ。なぁ、リサ?」

俺らに背を向けたままのリサにオヤジが声をかける。それから何かに気付いたように俺を見下ろしたが、俺は既にリサに向かって飛んでいた。リサの前に飛び降りて、優しく頭を撫でてやると小さく震えた手が俺のシャツを掴んだ。

「………マルコさ、たち、が、悪いんです。……早く、止め、くれな、から……っ、」
「あぁ、そいつァ悪かった。バカ息子共が、中々腹ァ括らねぇ」
「オヤジ……? どういう、事だよ?」

明らかに泣いてると分かるエースの声に、俺のシャツを掴むリサの手に力が篭った。

「まだ分からねぇか? エースとERROR、お前ェらの覚悟が知りたかった」
「覚、悟……?」
「リサが言った通りだ。テメェらは何も知らねぇ。一緒にいて楽しいからなんて理由だけで今までの生活を捨てる事ァしちゃならねぇ。いつか後悔する日が来る。この船に乗るって決めちまった事をな。そんなERRORに、お前ェらも後悔する。何で連れて来ちまったんだ、島に残しておきゃあ良かった、てな。だからリサに一芝居打たせたんだ、お前ェらがいつか後悔しちまわねぇように。腹ァ括って生きていけるように。悪かったなァ、リサ。さぁ、とっとと上がって来い」

リサの背に手を回して歩き出そうとしたが、リサに動く気配がねぇ。両手に顔を埋めて小さく震えたまま、首を振った。

「リサ?」

まさか、行きたくねぇなんて言う気か?

「あ、し……」
「?」
「動か、な………ごめ、なさ……っ、」

『酷い事言って、ごめんなさい』

参った。心の中で総呟きながらリサを抱きしめて軽く背中を叩く。暫くそうしてたが、震えが一向に治まらないリサに苦笑して「すまねぇ」と呟いて抱き上げた。

「わ……っ、」
「とにかく、船に行くよい」
「あ、あの……っ、自分で……っ」
「足が竦んで動けねぇのにかい?」
「そ、れは……でも……っ、」
「諦めて大人しく運ばれろい」
「は、恥ずかしいです……」

今度は真っ赤になった顔を見られないようにと顔を隠すリサに、自然と笑みが零れた。そんな態度取られたら期待しちまうんだが。

「こんな事される歳じゃないです」

舌打ちを心の中だけに留めた自分を褒めてやりたい。

甲板に降り立ってリサを下ろしてやると、リサは一番にオヤジを見上げた。恨めしげにじとりと睨むリサに、オヤジは少しだけ困ったような顔で笑っていた。

「オヤジさん、暫くは恨みます」
「あぁ、悪かった」
「赦しません」

フイと顔を背けた次の瞬間、リサはERRORに抱きついていた。突然の衝撃に踏ん張れなかったERRORがそのまま甲板に尻餅をついたが、リサはしっかりとERRORを抱きしめて放さなかった。

「ごめ、ごめ、なさ……っ! ERROR……ERROR、ごめ……っ」
「リサ……」
「出来損ない、なんて、思ってない……、ごめんなさ……っ、好き、だよ、だいすき、ごめ、ごめんね……」

ERRORに縋り付くその姿はまるで母親に縋り付いている子どものようで、益々もってERRORの母親には見えなかった。

「リサ……リサ……」
「ごめ、なさ、いっぱ、ひどい、こと、ゆった……っ、ぜんぶ、うそ、だよ……すき、だよ、ごめ、ね……」

リサが謝るたびに顔を歪めてったERRORは、とうとう声を上げて泣き出した。リサは必死に声を出すまいと抑えてるが、ERROR以上に声を上げて泣きたいんだって事は見てて分かる。

「………ンだよ、」

呟いてエースがその場に座り込む。テンガロンハットをグイと押し上げると涙で潤んだ目と赤くなった鼻が見えた。だが、その口はにんまりと弧を描いてる。

「ンだよチクショーーッ!! すっかり騙されちまった!!」
「全くだぜ! リサちゃん、女優になれちまう!」

サッチもその場に座り込んで両手を広げて後ろに倒れ込んだ。それを皮切りに、皆が武器を放り投げて座り込み、声を上げて笑い出す。

「ごめ、なさ……」
「ったく……オヤジも人が悪ィぜ! マルコ! お前も知ってたのかよ!?」
「当然だい」
「つーか、いつの間にオヤジと――あ! 前に朝早く来た時か!!?」
「グララララ!」

オヤジが笑って肯定を示すと、リサにしがみ付いて泣いていたERRORがピタリと泣き止んでリサを睨み出す。

「その頃からこの船に乗る事決めてたの!?」
「、うん」
「だって、お店は!?」
「閉めたよ」
「だって……っ!! おっちゃん達にだって何も……」
「ちゃんと理由を説明して、お店を閉める事も、この島を出る事も伝えてある」
「何でアタシに言ってくれないの!?」
「だって、さっきの事」
「あ、そうか……」

おバカERRORちゃん。そう言ってERRORの額を軽く突くリサに、俺とオヤジ以外が脱力して溜息を吐き出した。

「………アタシ、何も持って来てない」
ERRORが家を出た直後にマルコさんが来てくれて、もう船に運んである」

言い終わると同時にERRORが今度は俺を睨んだ。ついでにエースやサッチ達からも睨まれたから、そいつらには睨み返してやった。

「アタシ何も聞いてない! マルコさんのバカ!」
「不可抗力だい」
「バカバカバカ! リサにあんな酷い事言わせるなんてヒドイ!! マルコさんもオヤジさんもバカーッ!!」
「グラララララ! さァ、野郎ども!! 出航だ!!!」

甲板中から上がる声を掻き消す程の声量でオヤジが笑う。

「新しい家族だ!! 仲良くしやがれ!!」
「よろしくー!!」
「よろしくお願いします」
「「「「宴だああぁぁぁぁっ!!!!」」」」
「出航だっつってんだろい!!!」

家族全員の笑い声が、モビー中に響き渡った。