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日付が変わる頃に店を出て船まで歩いてた俺らは、こぞって上機嫌だった。

「まさか、リサが覇気使えるとは思わなかった」
「な! 俺も吃驚した!」

ビスタの呟きに笑顔で答えるハルタ。

「それも確かに驚いたが……」
「リサの親バカっぷりに驚いたぜ、俺ァ」

ジョズにイゾウが続いて、俺ら全員が「確かに」って頷いて笑う。いや、何となくは気付いてたけどな。初めて店に行った時、エースの顔を拭いてやったリサちゃんは何か手馴れてるように見えたからな。甲斐甲斐しくERRORちゃんに世話を焼いて、それを恥ずかしいって言いながらも受け入れてるERRORちゃんが容易に想像出来てまた笑った。

「明日、来てくれっかなァ?」

誰かが呟く。仲間になって欲しい気持ちは皆同じだ。だって、あのオヤジだって認めてる。ERRORとリサが娘になる事を望んでる。戦闘力だって申し分無い。

「さぁな」
「俺らが取るべき行動は一つだ」

肩を竦める俺にイゾウがニヤリと真っ赤に色付いた口端を上げる。つられたように、全員が笑みを浮かべる。

そう、俺らが取るべき行動はたった一つだ。

「欲しいものは、奪う」
「オヤジが望んでいるのなら、尚更な」

悪ィな、リサちゃん。ERRORちゃん。君達に選択肢なんて、端ッから無いんだぜ。

だって、俺らは海賊だから。




出航の日がやって来た。出航まであと一時間を切ったが、港にリサちゃんとERRORちゃんの姿はねぇ。一緒に行く気が無くても、見送りくらいは来てくれるはずだ。隣ではエースが船縁にべったりとへばり付いて港を見つめてる。その顔は物凄く不機嫌で、時々「今日で最後なのに……」とか「ちょっと食っただけで……」とか聞こえてくる。

「お前ェが盗み食いすっから上陸禁止令出されんだよ、ちったァ反省しろ馬鹿」
「――ERROR!!」

お前、俺の話聞けよ。って、ERRORちゃん?俺も身を乗り出して港を見下ろす。エースの声が聞こえた他の奴らも走ってきて俺らの横に並んだ。そこにはERRORちゃんが一人で立っていた。手ぶらなのは分かってたけど――リサちゃんは?

「リサは?」
「んー……それが、あの……約束があるから先に行ってて、って……」
「………ンだよ、それ」

隣にいるエースが顰め面で不満げに呟く。けど、多分俺も同じような顔をしてるはずだ。約束って……見送りすら来てくれねぇのか?今日返事するって言ったじゃねぇか。アレ、嘘か?

「ごめん……やっぱ、アタシ行けないよ。リサが行く気無いのに行けない……」

声が震えてる。なぁ、そんなツラそうな顔してんなよ。我慢は身体に良くねぇんだぞ?リサちゃんもERRORちゃんも、この船に乗せる事は決定事項なんだ。ただ、俺らとしては二人に「一緒に行きたい」って言って欲しい。嫌だって言われたら、俺らは攫って行くしかねぇから。「元気で」って笑って別れられるほど、俺らは『イイ人』にはなれねぇから。

ERROR、来いよ!」

エースが叫び、他の奴らも次々にERRORの名前を呼ぶ。ERRORちゃんが揺らいでるのが分かる。けど、ERRORちゃんは左右に首を振るだけ。何度呼んでも、縦には振ってくれねぇ。

なぁ、リサちゃん。君は来てくれねぇのか?確かにたった一週間の付き合いだった。けど、俺らはリサちゃんもERRORちゃんも一緒に連れて行きてぇ。一緒に旅してぇ。一緒に生きてぇんだ。俺らと家族になって欲しいんだ。

ほんのちょっとも、揺らいじゃくれなかったのか?

「――嫌だ!!」

大声で叫んでエースが船を飛び降りてった。ERRORちゃんに駆け寄って、必死に説得しようとしてる。俯いたままずっと左右に首を振り続けるERRORちゃん、もしかしたら泣いてんのかもしれねぇ。形振り構わずERRORちゃんを誘おうとしてるエース。――なぁ、マルコ。お前は何でここにいねぇんだ?

「マルコは?」
「そういや、見てねぇな……」
「アイツ、何やってんだ?」

リサちゃんを攫いに……って事ァねぇか。オヤジの所か?アイツ、そんな簡単に諦めんのかよ?リサちゃんに惚れてたんじゃねぇのか?毎朝買い出しに付き合ってたんだろ?店から帰ってから、徹夜で書類整理してた事知ってんだぞ?そんで、リサちゃんの買い出し付き合ってたんだろ?なぁ、そんだけ好きなんだろ?何でそんな簡単に諦められるんだ?何でお前もリサちゃんも、ここにいねぇんだよ!?

「――好きだ!!!」

怒鳴りつけるようなエースの声が聞こえる。セリフと声が合ってねぇぞ。けど、アイツの気持ちが痛いくらい伝わってきた。俯いたまま震えてるERRORちゃんが泣いてんのが分かった。
なぁ、頼むよ。俺らの大事な弟なんだ、イイ奴なんだよ。知ってンだろ?

「俺と――俺らと、一緒に来い!!」

ERRORちゃんに手を差し伸べるエースを援護するように、皆が船の上から叫んだ。俺だって叫んだ。世の中の嫌われ者だけど、ERRORちゃん達が思ってるほどイイ奴じゃねぇけど、きっと、想像以上に大変な思いさせちまうだろうけど、それでも、信じて欲しい。エースの気持ちも、俺らの気持ちも。信じて、手を取って欲しい。

「あ……」

誰かが声を上げる。ERRORちゃんが、ゆっくりと顔を上げた。泣いてくしゃくしゃになった顔で、何かを言おうとして、止めて。また何か言おうと口を開いて、けど、声にはならずに飲み込まれていく。

ERRORが決めろよ。リサじゃなくて、ERRORが自分で決めろ――俺らと、来たくねぇか?」

固く目を瞑って、ERRORちゃんが左右に首を振る。

「でも……っ、リサ、を、幸せに、してあげたい……っ!」
「俺ァ母親も父親もいねぇから分かんねぇ。けど、オヤジが言ってた。親は、自分の子が幸せなら幸せだ、って。なぁ、リサもそう思ってんじゃねぇのか? アイツ、お前の事スゲー大切に思ってんだろ。親バカだろ」

俺らが船から見てるって事を忘れてんのか、エースは俺らが見た事ない(むしろ、一生見たくなかった)甘ったるい顔でERRORちゃんに話しかけてる。あの野郎、ガキのくせに生意気だ。

「俺、ERRORに一緒に来て欲しい。ERRORの嫌いな海賊だけど、多分危険な目にも遭わせちまうけど、それでも一緒に生きてぇんだ」

『来いよ』

それきり、エースは何も言わなかった。ただ、ERRORちゃんに手を差し伸べてる。泣きじゃくるERRORちゃんは何も言わない。ERRORちゃんが一緒に来たいって思ってくれてる事は分かった。もう答えは選んだ。あとは、決めるだけだ。俺らと生きる覚悟を。エースを受け入れる覚悟を。リサちゃんを捨てる覚悟を。

「………っ、ア、タシ……っ、」

俯いたままERRORちゃんが漸く声を絞り出した。

「アタシ……っ、…………き、たい……っ、」

顔を上げたERRORちゃんはさっき以上に顔を歪ませてて、涙がぼろぼろ零れてて、とんでもなく辛そうだった。

けど、俺らに聞こえるくらい大きな声でハッキリ叫んだ。

「いっしょに、いきたい……っ!!」

エースがERRORちゃんを抱きしめると同時に、船上から歓声が上がった。