大人数とういだけあって、食事の時間は凄まじいの一言だった。誰もが我先にと料理に手を伸ばして邪魔をする奴は容赦なく殴るものだから、アタシは必死にエースの隣で縮こまっていた。痛いのは嫌。今は食器洗いも何とか終わってサッチさん、エース、アタシ、リサの四人で食堂で食後の団欒中。
「いやぁ、しっかしホントにリサちゃんの料理は最高だった!」
そう言ってサッチさんがアタシ達にコーヒーを出してくれる。さり気なくこういう事が出来る人だとは思ってなかったから、正直ちょっと驚いた。それに、リサの料理を褒めてくれるのも嬉しい。
「でしょ!? リサはアタシの自慢の家族だもん!」
向かいに座るリサが少しだけ恥ずかしそうに笑ってる。でも、嬉しいって思ってくれてる事もちゃんと分かってる。
「なぁ、リサもERRORもこの船に乗れよー。そしたら毎日リサの飯食えンだろ? 俺、あれ毎日食いてェよー」
そこまでリサの料理を気に入ってくれたって事も凄く嬉しい。けど、エースのその提案は呑めない。だって、お店があるから。あのお店はリサが自分から「やりたい」って言った唯一の事だから、簡単には捨てられない。そりゃ、エース達と一緒に行ったら毎日が楽しいと思う。自由に生きたいって言った時のエースの輝いた顔は瞼の裏に焼き付いてる。でも、それでも。
「ごめんね」
アタシはリサにあの店を捨てようなんて言えない。リサがどんな想いであの店をやりたいって言ったのかは分からないし、多分この先も分からないんだと思う。リサの中ではアタシが第一で、だからこそリサが「やりたい」って言ったあの店は大事にするって決めたんだ。力尽くで海賊達を追い払う事が危険な事だってちゃんと分かってる。それでも、アタシはあの店を護りたい。温かい人達がいるこの島を護りたい。リサの悲しむ顔を見たくないから。
「ERRORちゃんはリサちゃんが好きなんだな」
サッチさんがアタシに笑いかける。もしかしてこの人心の中が読めるの?って驚きながら、それでも大きく頷いた。当然だ。
「アタシの大切な家族だもん」
大切に決まってる。リサより大切なものなんて無いし、これからも無くて良いと思ってる。アタシはリサを幸せにしてあげたい。
「えー……なぁ、リサー、やっぱダメか? 俺、お前らと一緒に旅してェよ」
アタシを落とせないって悟ったエースが今度はリサを勧誘する。そりゃ、リサが「行く」って言ったら行くよ?アタシはリサの望みを叶えてやりたいだけだから。若い時にアタシを産んだリサは、多分アタシが想像もつかないくらい大変な思いをしてきたと思う。だから、大きくなったらリサを幸せにしてあげようって小さい頃からずっと思ってた。
「うーん、もう少し考えさせてくれる?」
アタシみたいにNOと即答しなかったリサに希望を見出したエースが目を輝かせて満面に笑みで頷く。サッチさんも少しだけ嬉しそうに見えた。けど、多分……言ってるだけだよね?だって、リサの大事なお店だよ?そう簡単に捨てられるものじゃないでしょう?リサと目が合う。リサはただにっこり笑うだけ。うーん、読めない。ずーっと一緒にいるしアタシはリサの娘なんだから、誰よりもリサを理解してる自信はある。けど、たまに読めない時もある。リサは難しい。アタシが単純なだけなのかなぁ……。
「じゃあ、最終日に聞かせてくれよ! 俺ら、あと六日でこの島を出るんだ」
「分かった。ありがと、エース君」
「ん?」
「誘ってくれて」
少しだけ照れ臭そうにエースが笑う。エースの笑顔は見てて安心する。太陽みたいで、温かくて、何だか大きいなって思うから。見てるだけで何だかポカポカするんだ。変な感じ。
「リサ、ちょっと良いかい?」
オヤジさんと一緒に食堂を出て行ったマルコさんが一人で戻って来た。首を傾げながら立ち上がってリサがマルコさんのトコに向かう。何を話してるかは聞こえないけど、頷いてリサが戻って来た。
「ちょっと町に行って来るね」
「? うん、分かった」
「サッチさん、コーヒーご馳走さまでした」
「おう! マルコ、変な事すんなよ!」
「もっぺんリーゼントへし折って欲しいのかい?」
「気を付けて行って来てください!!」
サッチさんを何処か呆れの篭った目で睨み付けてリサと食堂を出て行くマルコさん。あの人、絶対リサを好きだよね。何考えてるか分かんないけど、それだけは分かる。だって、甲板で嫉妬丸出しだったし。
「なぁ、ERRORちゃん」
二人がいなくなった方を見ていたアタシはサッチさんの声で振り返った。少しだけ真剣な表情だった。
「あー……これ、聞いて良いのか分かんねぇんだけど……」
躊躇いがちなサッチさんに、何を聞きたがっているのかすぐにピンときた。
「父親の事?」
「聞いて平気?」
「アタシは別に構わないよ。父親ね、いないの」
気付いてたと思うけど、って続ければサッチさんは「あぁ……そうかなって思った」って苦笑した。
「別れちまったのか?」
「エース、お前直球過ぎ」
呆れたようなサッチさんにエースは「そうか?」って首を傾げる。
「別に良いよ。別れたっていうか、元々結婚してないんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。父親はアタシの事知らないって言ってたし」
「あー……それは……」
「気にしてないよ。アタシにはリサがいるし、町のおっちゃん達が父親代わりみたいなモンだからさ」
寂しいって思った事はない。だって、リサがいたから。アタシに沢山の愛情を注いでくれてるから。だから、アタシはちっとも寂しくない。
ただ、リサはどうなんだろう、ってたまに思う。
「ERRORの事知らねぇって事は、ERRORが生まれる前に別れたきりか?」
「うーん、と言うかね……これは言って良いのか分かんないんだけど………リサもよく知らないんだってさ」
「「は?」」
エースとサッチさんの声が重なる。ポカンと口を開けて同じ顔しててちょっと面白い。
「え、何?どういう事?」
「海賊なんだって」
「そうなのか?」
「うん。だから何処にいるかも分からないし、アタシらは色んな島を転々としてたから」
「その父親の名前は?」
「分かんない、リサは知ってるかもしれないけど」
肩を竦めて、ふと隣に座るエースを見ると難しい顔をしてた。
「エース?」
「だからか?」
「ん?」
「だから海賊とは付き合わねェのか?」
あぁ、そう言えばさっきそんな事も言ったなぁ。
「うん。いつ帰ってくるかも分かんない上に生きてるかどうかすらも分かんない人を待ちたくないし」
「リサちゃんは待ってんの?」
「うーん……どうなんだろうね。昔はさ、強くなる為に鍛えるのは父親が迎えに来るのを待ってるからだと思ってたの。一緒に海賊船乗るのかなぁ、とか。でも、この島に来てお店開いちゃったしさ。海賊達から店や自分の身を護る為だったのかなぁ、って。リサの考えてる事、たまに分かんないんだよね」
「ERRORが十六っつってたろ? それから会ってねぇのに、今そいつに会って分かんのか?」
「さぁ? 父親の事は大分前に一回聞いたきりで、その後は聞いてないから分かんないんだ。別にそこまで興味も無かったし」
コーヒーを飲み干してカップを置くと、難しい顔をしたサッチとエース。
「分かんねぇなぁ」
「忘れちゃって良いと思うんだよね。娘のアタシが言うのもアレだけど、リサ美人だし」
「あぁ、スゲェ美人だな」
「でしょ? その気になればいくらでもイイ人見つけられそうじゃん。まぁ、アタシがいるから嫌がられちゃうかもだけど」
「いや、美人な奥さんと可愛い娘が同時に手に入るなら俺はいける!」
「お前ェじゃねぇだろ」
拳を握り込むサッチさんにエースが突っ込む。そうなんだよ、サッチさんじゃなくて。
「でもマルコさんも海賊だしなぁ……」
「何でマルコなんだ?」
首を傾げるエースは無視。
「けど、リサちゃんがマルコに惚れれば一緒に来れるんだろ?」
「なぁ、俺の質問は?」
「まぁね。アタシはリサがそうしたいなら構わないよ」
「おいって」
「んじゃ、マルコに頑張ってもらえば良いんだな」
「マルコさんが父親かぁ……それはそれで面白そうな気もするけど……」
「無視すんなよ!!」
とうとう立ち上がって声を荒らげたエースに、アタシとサッチさんが振り向く。多分、今のアタシとサッチさん同じ顔してると思う。
「だからっ! 何でマルコなんだよ!?」
「お前、鈍い」
「はぁ!?」
「マルコさんがリサを好きな事くらい、見てれば分かるでしょ?」
「――は!? マルコが!? リサを!?」
「………サッチさん、」
「何も言うな、ERRORちゃん」
哀れんだ目でエースを見てしまうのはしょうがないと思う。自分だけ気付けなかった事が恥ずかしいのか、顔を赤くしてるエースがちょっぴり可愛いって思ったのは内緒だ。