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レイアは呆れた顔でそこに立っていた。

「知ってる? バカにつける薬はないのよ」
「……ドクターにもいわれた」

うぇ、気持ち悪ぃ。顔を真っ青にしたリサが、胃の辺りを押さえながら呻いた。
その隣のベッドでは、床に跪いて目の前のベッドに縋り付くマルコの苦しげな姿がある。

呆れた。レイアは、それはそれは大きな溜息を零した。

マルコとリサが朝帰りをした。
二人を出迎えたクルーたちに冷やかされていた丁度その時に甲板に出たレイアは、並んで帰ってきた二人の顔色を見てすぐに気付いた。どう見たって色めいた事情などありはしない。
その場にいた誰もが気付いただろうが、どうやらそこに楽しみを見出したらしい。現在、モビー・ディック号内では『マルコとリサが朝帰りをした』という事実のみが伝えられ、二人の帰船時に居合わせなかった者たちはすっかり二人の関係を誤解してしまったようだ。

船に戻ってくるなり医務室に直行したマルコとリサは、呆れるドクターから酔い止めの薬をもらい、それからずっとベッドに縋り付いて苦しんでいる。何度も寝返りを打って呻くリサと、床に跪いてベッドに縋り付くマルコ。もうどれほどの時間が経過しただろうか。未だに二人の体調は治らない。

「喧嘩して飲み比べして、意地張って互いに止め時を逃して、この状態?」

信じられない。バカね。どうしようもないバカね。
苦しむ二人に追い打ちをかけるレイアは、傍から見ればどこか楽しそうでもある。

「それで? 何で喧嘩したの」

確かに元々仲が良かったとは言えないが、それでも最近は仲良くやっていたはずだ。
なのに何故?尋ねるレイアに、枕に顔を押し付けていたリサが顔を上げた。さすが、元奴隷といったところだろうか。ただの『仲間』となったレイアの言葉に過敏に反応するのは、その名残なのかもしれない。

「マルコが、わかれた、って」
「あらそう。やっぱり私たちの言った通りだったでしょう?」

さして驚いた様子のないレイアに、リサは更に呻いて再び枕に顔を付ける。
次に顔を上げたのはマルコだ。

「なに、人のはなし、してんだよい」
「文句なんて受け付けないわよ。ダシにされてるのも絡まれてるのもこの子だもの」

リサを指して言えば、苦い顔をしたマルコが「うぷ、」と嘔吐いて再びベッドに顔を埋めた。拳を握り締めて必死に吐き気と戦っているのだろうが、ぷるぷる震える拳が情けない。真っ青な顔も情けない。
これが一番隊隊長と二番隊隊長か。呟いたレイアの脳裏に甦るのは、昨夜の時点で飲みすぎて苦しくなっていた四番隊隊長の姿だ。どいつもこいつも、と溜息を零した。

「それで?」
「りゆう、きいた」
「どうせライアのヒステリックに嫌気が差したんでしょ。それで?」
「ざまぁ、ってわらった」
「そりゃ喧嘩になるわね」

リサからしてみれば、今までの仕返しをしてやりたかったのだろう。
悉く二人の喧嘩に出会し、喧嘩の理由にされ、くだらない噂を流されたのだから無理もない。
だが、別れた直後――しかも明らかに喧嘩別れだ――のマルコに「ざまぁ」と吐き捨てるなど、どうぞ怒ってくれと言っているようなものだ。ライアへ向けていた怒りの矛先をリサに変えたマルコと喧嘩になり、飲み比べで勝負をつけよう、などという流れにでもなったのだろう。

その結果が、ベッドに縋りついて呻く男と女の姿だ。情けない。

リサもマルコも船の中では酒が強い方だ。その二人がこんなになるまで飲み続けたということは。
間違いなく、二人の財布も寒々しくなってしまったに違いない。

何度だって言ってやる。情けない。

「ぎ、ぼぢ、わる……」

うぇ。ぐるじい、じぬ。呻くリサの背中を擦ってやり、レイアは溜息を零した。
隣へ目を向ければ、真っ青になって言葉を発することすら出来ないマルコが半分白目を剥いている。

「ほんと、情けないわね」

僅かばかりリサが落ち着いたのを確認したレイアは、今度はマルコの背中を擦ってやりながら何度目か分からない溜息を零すのだった。