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「どういうこと?」

詰め寄るレイをルーシーはぼんやりと見つめた。
レイの後ろには強引に連れて来られたらしいスネイプが顔を俯かせながら立っている。

「ねぇ、ルーシー。何かの冗談よね?」

傍らに立つリリーが困ったようにルーシーの袖を引く。
それに、ただ苦笑を返して。
取り敢えずは様子を見ようとでも思ったのだろうか。静観に徹するジェームズたちの表情も明るくはない。
スネイプがフラれて愉快なはずなのに、その表情はリリーたちと何ら変わらない。

どうして?
そんな目でルーシーを見つめている。

そんな友人たちと妹を見回して、ルーシーは目を伏せ息を吐き出す。
大丈夫だ。自分に言い聞かせて開いた目が、どうか潤んでいませんように。

「もう良いかなって思ったの」

息を呑んだのは誰だっただろうか。
決して見ないようにと目を逸しているのに、視界の端に映るスネイプがレイの後ろでグッと拳を握り締めたのが見える。
見たくないのに。そんな顔、見たくないのに。
再度目を伏せれば、腕を振り上げたレイが容赦なくルーシーの頬を打った。

「ふざけないで!!」
「レイ……! ダメよ、ねぇ止めて!」

リリーが必死に止める中、レイは尚も叫ぶ。

「好きだったんじゃないの!?」

「あんなに好きだって言ってたくせに!!」

「馬鹿にしないで……!!」

スネイプを想っていたレイには、ルーシーの言動は到底赦せるものではないのだろう。
それはそうだ。怒られて当然だ。本来ならばリリーだって怒るはずだ。
幼なじみを傷つけられて、怒らないはずがない。

「ねぇ、ルーシー……」

何とかレイを大人しくさせたリリーが縋るようにルーシーの名を呼ぶ。

「ねぇ、何があったの?」

何かあったんでしょう? そうよね?
何か理由があるはずだ。スネイプと別れなければならない理由が。

「ねぇ、お願い。教えてちょうだい」

自分も手伝うから。一人で背負い込まないで。
差し伸べられた手を取れたら、どんなに。

大きく息を吸って、吐いて。

「リリーのそういう所、好きだけど……うざい」
「、ぇ」

何を言われたのか理解出来ない。そんな顔をするリリーを見つめて、ルーシーは大袈裟に溜息をついてみせた。

「別にさ、よくあることでしょ? 学生時代の思い出作り」
「な、」
「『トモダチ』と友達ごっこして、『コイビト』と恋愛ごっこして――もうすぐ卒業だし、もう良いかなって思ったんだよ」
「ルーシー、お前何言ってんだよ」

震えるシリウスの声に振り返れば、血の気を失くしたシリウスが顔を強ばらせながらこちらを見つめている。
ジェームズも、リーマスも、ピーターも。

「どうして……ルーシー? ねぇ、何が――」
「――君、誰?」

リーマスの声を遮ってジェームズがルーシーに杖を向ける。
息を呑むリリーたちの視線を受けながら、ジェームズは冷たい目でルーシーを見据えていた。

「どういう意味?」
「僕が知ってるルーシーは、そんなこと言わない。絶対に」

だから、君は偽物だ。
突きつけられた杖からジェームズへと視線を移して、ルーシーは笑った。

「ねぇ、ジェームズ」

彼らが傷つく言葉を必死に考えて。
どうか、声が震えませんように。祈りながら口を開く。

「君が、私の何を知ってるって言うの?」
「っ、」

言葉に詰まり怯むジェームズの手から杖を叩き落として、ルーシーはそれを拾いながら嗤う。
はい。差し出した杖に、けれどジェームズは手を伸ばすことはなくて。

「今までありがとう、楽しかった」
「ルーシー……」
「素敵な思い出が出来て良かったよ」

杖をジェームズに押し付けて、ルーシーは笑う。

「バイバイ」

何も言えずにいる友人たちに背を向けて、ルーシーは歩き出す。

泣くな。
何度も自分に言い聞かせて。

笑え。
心から笑える日なんて、もう二度と来ないと分かっているのに。

止まるな。
振り返りたくなる衝動を必死に堪えて。

「――、さよ、なら……」

彼らがこれから歩むであろう明るい未来を思い描こう。
リリーとジェームズが結婚して、子どもが生まれて。
シリウスやリーマス、ピーターにもそれぞれ恋人が出来て。結婚するかもしれない。
スネイプとレイは、付き合うのだろうか。きっと付き合うのだろう。笑い合う二人を思うと胸が痛むけれど。
自分がそこにいないのは、辛くて悲しい。寂しい。

それでも、幸せに笑っていてくれるのなら、それで良いのだと言い聞かせて。

大丈夫。言い聞かせるように何度も呟いてルーシーは顔を上げた。
大丈夫。大丈夫なことなんて何一つとしてないと分かっているくせに。

「だい、じょぶ」

言い続けていればいつか本当になるんじゃないかと、そう願って。