自分でも分かってる。レイは唇を噛み締めた。
「レイ、あの……」
話しかけてくるルーシーを避け続けてひと月。
それでもめげずに話しかけてくるルーシーが酷く煩わしい。
睨み付けてやれば、ビクリと身を揺らしたルーシーはそれ以上何も言わずに俯き黙り込む。
まるで、こっちが悪者みたいではないか。
「ご飯よー」
「――いま行くわ」
「あ、」
階下から聞こえた母の声に返事をしてルーシーの脇をすり抜ける。
小さく上がった声に気づきはしたけれど、振り返る余裕など持っているはずもなかった。
ルーシーの所為じゃない。
スネイプがルーシーを好きになった理由は、誰よりも自分が一番よく分かっているのだから。
けど、それでも。
「………嫌いよ」
それを認められるほど、レイは大人ではない。
いくら二人が想い合っていたとしても、簡単に諦められるようなものではない。
ずっと一緒にいたのだ。
ルーシーとも、スネイプとも。
誰よりも自分が一番近いと思っていた。信じていた。
二人の一番は自分だと、そう信じていた。
何て子どもなのだろうか。
自嘲して居間へ向かえば、既に昼食の用意を終えた母が待っていた。
「ルーシーは?」
「すぐ来ると思うわ」
「そう――あ、手紙届いてたわよ」
テーブルを指す母の指を目で追えば、手紙の束が置いてあった。
一番上にあるのはホグワーツからの手紙だ。ルーシーの分とレイの分とで二通きている。
一通一通宛名を確認していけば、同じ寮の友人からも手紙が届いていた。きっと、買い物に行こうという誘いの手紙なのだろう。
息が詰まるようなこの状況を打破出来るのならば大歓迎だ。そそくさと手紙を開いて指定された日付を確認したレイは、ホッと安堵の息を漏らした。
ふと、残りの手紙へと目を向けた。
ルーシーの友人であるリリー・エヴァンズの名前が綺麗な字で書かれている。
その下にもう一通あることに気付いたレイは、宛名を確認しようとそれを手に取った。
『ルーシー・カトレット様』
宛名は見慣れたルーシーの名前だ。
けれど、見慣れていたのはそれだけではない。
その字はこの五年間ですっかり見慣れた字でもある。誰が書いたのかなんて、一目で分かった。
唇を噛み締めて封筒を裏返せば、レイの思った通りの名前がそこにあった。
「…………」
もうバレてしまったから、隠す必要もないということだろうか。
まるで、二人の仲の良さを見せつけられたようで、レイは手紙を持つ手に力を篭めた。
くしゃりと皺が寄った手紙をゴミ箱に捨ててしまいたい衝動に駆られる。
今なら。
今なら、誰も見てない。
ちらりと振り返れば、サラダの盛りつけをしているらしい母の姿がキッチンに見えた。
ルーシーは未だ下りてくる様子はない。
今なら。
今なら、気付かれない。
この手紙を捨てれば、ルーシーはスネイプに返信をすることが出来ない。
そうなれば、スネイプはルーシーから手紙が返ってこないことを不審に思うだろう。
もし、それで喧嘩をしたら?
もし、それで二人が別れたら?
どくん、どくん。
煩い心臓を押さえ付けながら、レイはゴミ箱へと向かった。
今なら。大丈夫、バレない。
これを捨てれば、二人は別れるはずだ。
「――、」
どくん、どくん。
逸る心臓に急かされるようにして、そっと手紙をゴミ箱の奥の方へ押し込んだ。
わざとらしくガサガサと音を立てて封を開けて、友人からの手紙にざっと目を通す。
「お母さん、来週の木曜日にダイアゴン横丁行くわ」
「友達と?」
「そう、誘われたの」
口早に答えながら手紙を封筒へ戻し、ホグワーツから届いた手紙を一通手に取ってポケットに押し込んだその時、漸く階段を下りてきたルーシーが居間に入って来た。
「やっと来たのね。ルーシー、貴方にも手紙が来てるわよ」
ギクリ。レイは全身を強ばらせた。
もし、母がスネイプからの手紙を見ていたら?
もし、母がそのことをルーシーに言ったら?
チラリとゴミ箱へと目を向ければ、先程押し込んだ手紙の端が見えていた。
もし、バレたら?
浅はかな行動を取った数十秒前の自分を恨むが、もう遅い。
「お母さん、リリーが来週辺りに買い物に行こうだって」
「あら、じゃあ木曜日にしたら? レイも寮の子に誘われてるらしいの」
「ん、じゃあそう返しとく」
ホグワーツからの手紙とリリーからの手紙をポケットにしまったルーシーが席に着く。
気付かれないように深呼吸を一つしたレイは、何気ない顔で自分の席へと向かった。