夏休みが始まってからというもの、少なくとも週に一度はルーシー宛に手紙が届いた。多くはハーマイオニーからだ。時折ロンやカーラが手紙の返事をくれていたけれど、不思議なことにハリーからは一度だって手紙が送られてくることはなかった。
「ルーシー、宿題はどうだ?」
「あと魔法薬学だけだよ」
夏休みに浮かれる生徒達に釘を刺すかのように、スネイプの出した課題はおそろしく面倒でおそろしく難しかった。ついでに退屈でもあった。あとどれくらい書かなければならないのか確認するたびに溜息が出てやる気が削がれていくものだから、きっとそういう魔法がかけられているんだろうとルーシーは思った。
「ねぇレイ、ハリーから手紙届いた?」
「いいや、来てないな」
夕食の支度を始めるおじさんの背中を眺めながらルーシーはまた溜息を零す。どうしてハリーは一度も連絡をくれないのだろう。ロンとハーマイオニーへの手紙には書くことが出来なかったが、もしかしたらハリーはルーシーと仲良くしたくないのではないだろうか。
「何か変なこと書いたかな……?」
「ん? 何か言ったか?」
「んーん、何でもない」
くよくよしても仕方ない。次にロンとハーマイオニーのどちらかから手紙が届いたら聞いてみよう。
どうか嫌われていませんように……祈りながらルーシーはスネイプとの戦いを再開した。
やっとの思いで宿題を終え、清々しい気持ちで夕食を食べていると一羽のふくろうがコツコツと窓を叩いた。ロンの家のふくろうだ。窓を開けて迎え入れてやると、ふらふらと家の中に入ってきて手紙をぽとりと落とす。ついでに自分も床に落ちそうだったのでギリギリのところで受け止めてやった。
「大丈夫?」
『つかれた……』
「おじいちゃんなんだから無理しないでね」
「エロール、送ってやるから待ってろよ」
おじさんがベーコンと水を差し出すと、エロールはフラフラとルーシーの腕から飛び降りて疲れ切った様子でもそもそと食べだした。夕食を中断してロンからの手紙を開くと、そこにはハリーから一度も返事がきていないことが書かれていた。
「ロンもだったんだ!」
「どうした?」
「ハリーから一度も返事がこないって。ハリーの親戚が魔法嫌いだから仕方ないって思ってたみたいだけど、魔法使って魔法省から警告が届いたって! ハリーが退学になったらどうしよう!」
「落ち着けって。警告がきたってそう簡単に退学にはならないもんさ。……でも、警告が届いたってことはあのマグル達にも学校の外で魔法が禁止されてることがバレちまったかもな」
「ハリー大丈夫かな……」
「まぁ……十中八九、閉じ込められるだろうな」
食後のコーヒーを啜りながらおじさんが言う。
「考えてもみろよ。あいつらは魔法嫌いで元々ハリーを入学させたくなかったんだろ? なら閉じ込めれば新学期になっても学校に行けない。無理に行こうとして魔法を使ったら退学処分」
「あー……あー……それ、もうどうしようもなくない……?」
「ないな」
「ごちそうさまでした」と手を合わせたおじさんが食器を片付け始めるのを呆然と見送ったルーシーは、慌ててロンの手紙の続きを読んだ。どうにかしてハリーを助ける方法を見つけなければ!
「レイ! ロンがハリーを助けに行くって言ってるよ!」
「ほー、そりゃ凄い。どうやって?」
「書いてないけど……成功したらまた連絡くれるって」
「それじゃ連絡待ちだな」
「私も行きたい!」
「あのなぁ……」
戻ってきたおじさんは呆れ顔だ。
「エロールを送りに行くんでしょう? 私も行く! ついでにハリーの所にも行こう!」
「だから、」
「宿題終わったよ! ご褒美!」
見つめ合うこと数十秒。折れたのはおじさんだった。
「まったく……どこで育て方を間違ったんだか」
「レイが愛情たっぷりに育ててくれたからこうなったんだよ!」
「はいはい。ほら、さっさと食べちまえよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でる大きな手に、ルーシーは満面の笑みで頷いた。
その夜、ルーシーとおじさんはエロールを連れてハリーの家へと向かった。どうせロン達に会うのなら、そこでエロールを引き渡そうということになったからだ。あの飛行っぷりを見てしまえば、「じゃあ気をつけて帰ってね」なんて見送ることはどうしても出来なかった。
「ほら、落ちるなよ」
「はーい」
箒に跨るおじさんの背中をしっかり掴みながら返事をする。こうして二人で箒に乗るのは初めてだ。エロールが柄の先の方でのんびり鳴くのを聞きながら、おじさんが地面を強く蹴った。
「学校の外で乗るの初めてだ!」
「興奮して落ちるなよー」
「大丈夫! エロールは平気?」
大丈夫だとでもいうようにエロールがホーと鳴いた。
夜の街を飛び越えてルーシー達はハリーの住むプリペット通りを目指した。ロン達は一体どうやってハリーを助けに行くのだろう? それにハリーは無事だろうか? ちゃんとご飯を食べさせてもらっているだろうか?
ハリーの救出に成功したらハーマイオニーにも連絡して教えてあげよう。夜の空気を肺いっぱいに吸い込みながらルーシーはそう思った。
真夏とはいえ、長時間上空を飛ぶのはさすがに冷える。途中から上着を羽織ったルーシーは家を出る前に「ちゃんと持って行けよ」と声をかけてくれたおじさんに感謝した。
「正解だったろ」
「うん、ちょっと寒くなってきた……レイ達は平気?」
「俺は平気だ。エロールも大丈夫だとよ」
どのくらい経っただろうか。漸く辿り着いたプリペット通りを上空から見下ろすと、家々がきっちり区画分けをされ整列するように建てられているのが分かる。木々が生い茂る森の中に建てられたルーシーの家とは大違いだ。
「あそこだな。二階の窓に鉄格子が嵌められてる」
「なんか……牢屋みたい」
ハリーとヘドウィグを逃さない為なのだろう。小綺麗な住宅には似つかわしくない無骨な鉄格子が窓枠に嵌められていた。