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学年末の試験は茹だるような暑さの中で行われた。生徒達にはカンニング防止の羽根ペンが配られ、張り詰める緊張感の中で一所懸命に問題と戦った。
ルーシーの気持ちはずっと晴れないままだったが、それでも試験が終わった時には解放された喜びから皆と一緒に歓声を上げた。

「思ってたよりずっと易しかったわ」
「もう復習しなくて良いんだ!」

湖畔の木陰に寝転びながらハーマイオニとロンの嬉しそうな声を聞く。心地よい風に目を細めると欠伸がこみ上げてきた。

「もう暫くは教科書開きたくない」
「ルーシー、スカート」

乱れたスカートを直してくれたハーマイオニーが呆れた目をルーシーに向けてくる。照れ笑いと共に礼を言うと溜息をつかれた。

「ハリー、もっと嬉しそうな顔をしろよ」

何か考え込んでいるハリーに、ロンがテストの結果なんて気にするなと励ましている。

「これがどういう事なのか分かればいいのに! ずーっと傷が疼くんだ……今までもこういう事はあったけど、こんなに続くのは初めてだ」
「医務室行く?」
「僕は病気じゃない」

ルーシーの問いかけにハリーがぴしゃりと言った。

「きっと警告なんだ……何か危険が迫ってる証拠なんだ」
「ハリー、リラックスしろよ。ダンブルドアがいる限り『石』は無事だよ。スネイプがフラッフィーを突破する方法を見つけたって証拠はないし。それにハグリッドがダンブルドアを裏切るなんて有り得ないよ」
「うん……でも何か大切なことを忘れてる気がするんだ……」
「――ハグリッドはドラゴンを欲しがってたよね」

ルーシーが呟くと、額をこすり呻いていたハリーが弾けたように顔を上げた。

「ずーっとドラゴンを欲しがってたハグリッドの前に、たまたま卵を持ってた人が現れた。それだけならまぁ、あるかもしれないけど……でもこのタイミングでっていうのはちょっと出来すぎてるよね」
「それだよ! ルーシーいつから気付いてたんだ!?」
「ちょっと前かな。でもテスト前で皆忙しかったから、まだ暫くは『石』は無事だろうと思って黙ってたの」
「ハグリッドの所に行かなきゃ!」

立ち上がり叫んだハリーがハグリッドの小屋へ向かって駆け出す。ルーシーたちも後を追った。

「ハグリッド! ノーバートを手に入れた時のこと教えてほしいんだ。トランプをした相手ってどんな人だった?」
「分からんよ。マントを着たままだったしな」

四人が絶句しているのを見てハグリッドはちょっとだけ笑った。

「そんな珍しいこっちゃない。ホッグズ・ヘッドなんてとこにゃ――村のパブだがな、おかしな奴がうようよいる。もしかしたらドラゴン売人だったかもしれん。顔も見んかったよ。フードをすっぽり被ったままだったし」
「その人とホグワーツの話とかした?」
「うーん、そうだな……したかもしれん。あんまり覚えとらん……何せ次々に酒を奢ってくれるんでな……」
「ドラゴンが欲しいってハグリッドが言ったの?」
「ん? あぁ……うん、そうだな。そしたら卵を持ってるって言って……そんで、でも育てるのが難しいから誰にでもやるわけにゃいかねぇって言ったんだ。だから俺は言ってやったよ。そんなのフラッフィーに比べたら簡単だってな」

思い出したのかハグリッドは得意げだった。

「その人、フラッフィーに興味持ってた?」

ハリーの声には隠しきれない焦燥や動揺が滲んでいる。

「そりゃそうだ、三頭犬なんて魔法界でだって珍しいからな。だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんか宥め方さえ知ってりゃ簡単だってな。ちょいと音楽を聞かせてやりゃすぐにおねんねしちま――お前達にゃ話しちゃいけなかったんだ!」

慌てた様子でハグリッドが叫ぶ。ハリーは既に走り出していて、ルーシー達も慌てて後を追った。
やはり犯人は既にフラッフィーを出し抜く方法を見つけていたのだ。

「ダンブルドアの所に行かなくちゃ」

玄関ホールまで戻って来た時ハリーが言った。

「きっとマントの奴はスネイプかヴォルデモートだ。どうにかしてダンブルドアに知らせないと……」
「そこの四人、何をしてるんです?」

四人はびくりと肩を震わせて振り返った。マクゴナガルだ。訝しがるマクゴナガルの視線を受け、目配せをしたハーマイオニーがおそるおそる一歩前に進み出た。

「あの、私達……ダンブルドア先生にお目にかかりたいんです」
「ダンブルドア先生はお出掛けになりましたよ」
「出掛けた?」
「魔法省からふくろう便がきて、ロンドンに発たれました」
「そんな! でも重大なことなんです。……『賢者の石』のことなんです」

ハリーが声を潜めて言うとマクゴナガルの顔が驚愕に染まった。見開かれたその目は信じられないと言っている。ハリーが続けた。

「誰かが『石』を盗もうとしています。どうしてもダンブルドア先生にお話しなくてはならないんです」
「……ダンブルドア先生は明日お帰りになります。貴方達がどうしてあの『石』のことを知っているのか分かりませんが、守りは盤石です。だから安心なさい」
「でも、」
「二度は言いませんよ、ポッター。さぁ、四人とも外に出なさい。せっかくの良い天気ですよ」

そう言ってマクゴナガルが去った後、ルーシー達は外には出ず玄関ホールに留まっていた。

「テストは終わった。それで今日はアルバスがいない……」
「ってことは……」
「今夜だ。スネイプが盗みに入るはずだ」
「でもどうするの? 私達には何も出来ないわ」

断言したハリーにハーマイオニーが不安げに問いかける。ロンの顔も心配そうだった。

「――よし、こうしよう。誰か一人がスネイプを見張るんだ。職員室の前で待ち伏せて後をつける。ハーマイオニー、君がやってくれ」

緊張した面持ちで頷いたハーマイオニーが職員室へ向かうのを見送ると、ハリーはフラッフィーの廊下を見張ろうと提案した。

「私もここに残るよ」
「君も?」
「ハーマイオニーとは別に隠れてる。もしもの時、悪戯で気を引いてみるよ。罰則にでもなれば今夜を乗り切れるかもしれないし」

神妙な面持ちで頷くハリー達と別れ、ルーシーは職員室近くの隠し通路に身を隠した。視線の先ではハーマイオニーがもうスネイプに捕まっている。早すぎだよ。苦笑するルーシーの視線の先で、ハーマイオニーはフリットウィックと話を始めた。咄嗟にフリットウィックの名を出したのだろう。ハーマイオニーの顔が引きつっているのが見て取れた。
スネイプが地下へ下りていく。ルーシーはこっそり後を追った。